地域医療ニュース
第10回千葉県脳卒中連携の会について
文/千葉県医師会理事 松岡かおり
この会が平成21年度に始まって、10年目を向かえました。この大会の日は雪が降ったり、強風に飛ばされそうになったりといつも天候に不安を持ちながらの開催ですが、開催された2月17日は天気のよい一日となりました。
今回は記念大会と位置付け、この10年の軌跡をたどることにしました。当初、千葉県の第6次保健医療計画に位置付けられた「循環型地域医療連携」体制の構築のため、千葉県・県医師会・関連医療機関の協働により、「千葉県共用地域医療連携パス」が作成されました。その連携推進のために「千葉県脳卒中連携の会」が開催されています。第1回目は1000人を超える参加者で、地域医療連携推進の期待に満ちたものと聞いています。
その中で作成された脳卒中共用連携パス(CAMP-S)は病院間の間をつなぐものでしたが、平成21年度には地域ともつながる「千葉県地域生活連携シート」が加わりました。その後急性期病院・回復期ともに団体ができ、急性期の集まりは「CAMP-S計画管理病院協議会」、(当初24、現在27医療機関)、回復期病院の集まりは「千葉県回復期リハビリテーション連携の会」(当初27、現在60医療機関)となりました。
平成26年度からは、「脳卒中患者の退院時支援事業」となり、脳卒中患者の退院時における病院と在宅医療・介護関係者との連携の仕組みづくりを主軸にした事業として展開することとなり、平成26年度は実態調査を行いました。その後、地域でのモデル事業を開始、平成27・28・29年度は①市原地区医師会、②君津木更津医師会が事業を受託していただきました。平成29年度には、脳卒中の枠組みを外し、対象を全疾患に拡大、退院時のみでなく、入院時からの支援を一連として考え「病院と地域で切れ目のない支援を行うための入退院時支援事業」を行うことになりました。これ以降は3地区2年ごととのモデル事業とし、平成29年度には③香取郡市医師会 ④千葉市医師会 ⑤印旛郡市医師会(成田地域)、平成30年度には⑥松戸市医師会 ⑦市川市医師会 ⑧柏市医師会 が参加しています。
第7回の連携の会で、サブテーマで掲げた「ときどき入院、ほぼ在宅」がこの主旨に合致し、以後はメインテーマとして掲げることになりました。第9回には「千葉県脳卒中連携の会」から全疾患対象という主旨を踏まえ「千葉県脳卒中等連携の会」に名前を変えています。
第10回のメインテーマ「ときどき入院、ほぼ在宅」のままとし、サブタイトルを~生活の支援と再建~としました。内容は例年通り、午前は専門職別分科会(今年度からは医療連携室部会を新しく設置)、午後は全体会という構成となっています。分科会は看護職・薬剤師・医療ソーシャルワーカー(以下MSW)・栄養師・リハビリテーション職・薬剤師・入退院支援・歯科医師・医師 に分かれて行われました。看護職分科会では「脳卒中における栄養―食べることを維持するためには-」をテーマに、急性期・回復期・チームアプローチの視点から発表がありました。薬剤師分科会では2時間の枠をとって、グループワークを行い、薬剤シートを実際記入して活用の周知と問題点の抽出を行いました。MSW分科会では「若年性高次機能障害者」への支援を考える会となりました。栄養師分科会では嚥下内視鏡検査を健常者で行うという試みが行われ、非常に興味深かったです。リハ職分科会は千葉県を3地域(県北・県央・県南)に分けて地域性を生かした連携の検討を行っています。入退院支援分科会は今回初めての開催となりました。まずは、自己紹介からの始まりになったとお聞きしています。
医師部会では、平成27年度から始まり今回5回目となる「実践!模擬多職種退院カンファレンス」を開催しました。病院での退院カンファレンスを模倣し、病院側と地域が話し合う症例検討会です。今回は「退院困難例」として、3症例について検討しました。1例目は、独居・現金はほとんどなく資産がある・親族は関与拒否の患者。2例目は、若年高次機能障害・未収金がある患者。3例目は外国人留学生で帰国目前に受傷。所持金無しの患者。いずれも解決策が難しく、ミニレクチャーを入れて、できること・繋げられることの整理を行いました。この資料については公表を検討しますので、ぜひ地域でもご活用いただければと思います。
第二部では、主催者である千葉県健康福祉部保健医療担当部長 岡田就将さま、千葉県医師会副会長 金江清先生の挨拶の後、「講演」「特別講演」「モデル事業報告」「分科会報告」「総括」を行いました。
「講演」では県医師会入退院時支援推進委員会の委員長である千葉県救急医療センターの古口徳雄先生から「連携の会 ~これまでの10年の軌跡~」について、ご講演いただきました。先生は共用パスや連携の会が始まった当初からの中心人物であり、この10年のご苦労と2025年に向けて地域包括ケアまで広げていきたいという思いを知ることが出来ました。
「特別講演」では日本慢性期協会副会長・福井県医師会副会長 池端幸彦先生より「地域包括ケアの深化にかかる医療介護連携 ~QOLからQODへ~」とし、ご講演をいただきました。内容は、地域包括ケアシステムの考え方、ACP「人生会議」の説明から、医療機関の役割分担として垂直連携と水平連携の流れ、入退院支援ルールの必要性、連携の極意として鍵は「ドクターとケアマネ」であり、間を取り持つのはMSW・看護師・連携室等ということ。また、医師会の役割にも言及いただきました。これからは医療と介護「連携」から「統合」へ向かうというステップもお示しくださいました。
「モデル事業報告」では、前述の医師会(①香取郡市医師会 ②千葉市医師会 ③印旛郡市医師会(成田地域) ④松戸市医師会 ⑤市川市医師会)にご発表頂きました。香取郡市医師会では、「香取地域の医療と介護がつながる委員会」が発足し、入退院ルールが作られました。ルールはフローチャートとし、近隣郡部3町にも拡大し、周知を図っているとのこと。ナースサマリーを地域生活連携シートBとした病院も出てきました。千葉市医師会では千葉大腿骨頸部骨折地域連携パスのネットワークからできた地域連携室連絡会を活用し、医師会・行政と地域がつながり、千葉市入退院支援委員会が設置されました。病院窓口を明確化し、独自に講師を呼び勉強会を近く開催、今後は市の事業への転換も予定しているとのことでした。印旛郡市医師会(成田地域)では、成田赤十字病院を中心に入退院支援モデル推進委員会が立ち上がり、入退院支援マニュアルが作成されました。マニュアルには退院時に医師への情報提供書のコピーをケアマネにも送付する事、退院時に調剤薬局や在宅の歯科に声掛けする基準(「薬の自己管理困難者」「嚥下に問題のある者」)などが盛り込まれました。松戸市医師会では医師会が行っている在宅医療・介護連携支援センターが中心となって、事業を展開。急性期病院との前方連携の仕組みづくりとし、診療所から病院へ紹介する際の問題点を明らかにし、通常入院・緊急入院・専門外来・画像/内視鏡検査・要介護者の受診、地域生活連携シートの運用について具体的に検討しているとのことでした。市川市医師会では情報の共有化のためのプラットフォームとして、「地域医療情報連携システム」を立ち上げ、体制整備中とのことです。いずれの医師会も力強くシステムを作り上げており、今後の展開を楽しみにしたいと思います。
終わりに「分科会報告」と「総括」が行われました。総括は再度、入退院時支援推進委員会の委員長、古口先生からお話を頂きました。今回、発足した「医療連携室部会」のこと、モデル地区での活発な活動についてのまとめと共に、当会10年目の節目にいわゆる「脳卒中・循環器病対策基本法」が制定されたこと、その目指すところは当会の目標と同じレールにあるとの強いメッセージを頂き幕となりました。
一日という長い会でしたが、総勢約700名の参加でした。多数の方々にご参加いただきました。本当にありがとうございました。
最後になりますが、この会は有志として多職種が集う千葉県脳卒中等連携意見交換会が中心となって、開催されています。事務局を務めていただいている東京湾岸リハビリテーション病院の近藤国嗣院長始めスタッフのみなさま、関係者の方々には改めてこの場をお借りしまして御礼を申しあげます。
千葉県医師会理事 松岡かおり
PDFファイルダウンロード
モデル事業報告(香取・千葉・成田・松戸地区) (6.98MB)
第10回千葉県脳卒中等連携の会 冊子 (6.11MB)
第10回千葉県脳卒中等連携の会 模擬カンファレンス 配布資料 (834KB)
第10回千葉県脳卒中等連携の会 模擬カンファレンス ミニレクチャー
(841KB)
講演「連携の会について~これまでの10年の軌跡~」 (8.45MB)
特別講演「地域包括ケアの深化にかかる医療介護連携~QOLからQODへ~」
(18MB)
当日の様子(写真) (1.49MB)