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 「ふくら」は、大豆の「スイーツ」とされているが、そんなありきたりな横文字で表現できるシロモノではない。
 お菓子だと思って初めて食べた時、びっくりした。甘くないのである。カステラでもなくカマボコでもなく、たぶん誰もが今まで味わったことのない食感のものだ。
 やがて、そのわけがわかった。「ふくら」の前身は、一九三五年から続く「豆富かすてら」であり、それを変化させ進化させる一方、守るべきところは頑として守った末にできたものだったのだ。「守るべきところ」は、一切の添加物や人工的な素材を排除し、秋田産の大豆と比内鶏の卵、そして上質な和三盆を使うことだった。私はこれらの本来的な力と旨みに気づいた時、現代人がいかに人工的な強い甘みに慣らされていたかを思い知った。
 「ふくら」は上品なお菓子としてコー ヒーや緑茶にも合うが、山葵醤油や辛子醤油、柚子胡椒などをつけると、フルボディのワインにも、こっくりした日本酒にも、冷たいビールにも不思議なほど合う。素材の力と旨みの賜だ。
 木目の美しい箱には何を入れようかと考えながら、私は至福の一刻を過ごすのである。


1948年秋田県生まれ、東京育ち。武蔵野美術大学、東北大学大学院卒業。13年半のOL生活を経て、88年脚本家デビュー。NHK大河ドラマ『毛利元就』、NHK朝の連続テレビ小説『ひらり』『私の青空』、最近作に『塀の中の中学校』(平成22年度文化庁芸術祭参加作品、TBS)など作品多数。著書も『女はなぜ土俵にあがれないのか』(幻冬舎新書)、『食べるのが好き 飲むのも好き 料理は嫌い』(NHK出版)など多数。

創業昭和拾年