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イイ気になって本を読んで、イイ気になって感想を書いたりしてごめんなさい。小説家・清水博子が好きでした

2013年11月13日 11時00分 (2013年11月16日 09時01分 更新)

『ぐずべり』清水博子/講談社

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2013年10月10日、清水博子さんという小説家が45歳で亡くなった。追悼するのではなく、記憶しなおすために、この文章を書いている。

かつて批評家の石川忠司さん(佐野元春似)は彼女の短篇「空言」を評して、このように書いた。

〈基本的に「不潔」なテイストをもつ清水博子の散文はこの作品でも好調だ〉(『ドゥードゥル』附録に引用された《文學界》1998年7月号「新人小説月評」)。

この評言を読んだ人は、どういうこと?と一瞬疑問に思うかもしれない。〈好調〉とは、「アイツの不潔具合が絶好調なのでムカつく」という意味ではない。そうではなく、
「基本的に「不潔」なテイストが、清水博子の散文の魅力であり、新作「空言」も順調に「不潔」なのでOK」
という意味なのだ。

内容が不潔なのではない。不衛生な題材をあつかっているのでもなければ、不道徳な(比喩的な意味で「フケツよっ!」と言うような)題材をあつかっているのでもない。
いや、人によっては不道徳と言いたくなるような題材(他人の日記を盗み読みするとか)は出てくるけれど、不道徳だからいいとかダメだとかいった意味で書かれているわけではない。

どういう意味で〈不潔〉なのかは後回しにして、彼女の作品をいくつか、駆足でご紹介したい。
清水博子は1968年、旭川に生まれた。早稲田大学第一文学部(文芸専修)を卒業後、1997年、「街の座標」ですばる文学賞を受賞して、作家としてデビューした。
『街の座標』(集英社文庫)は150頁足らずの中篇小説だけれど、読むのにはかなりの緊張感が強いられる。というか私が読んだ彼女の作品はどれもそうであり、デビュー時からそうだった、ということだ。

語り手は文学部の学生で、卒業論文の題材にIという小説家を選ぶ。〈I〉の作品には〈S区S街〉のことがよく出てくる。
〈わたし〉は世田谷区の、下北沢と三軒茶屋のあいだくらいに住んでいる。多くの大学生がそうであるように、〈わたし〉だって熟慮の末に題材を選んだわけではない。
ただIの作品(全作品ではない。1冊だけ)が頭に残っていたから題材に選んだだけなのだ。だからIについてよく知らない。よく知ろうともしない。Iが〈わたし〉の部屋の窓から見える建物に住んでいるということも、だから、その友人に教えられて知ったくらいである。
それを知ってますます動揺し、〈わたし〉は頭のなかでIのことをぐるぐると考えたまま、卒論がまったく書けない。
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