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【なるほどランド】

仲間をまねるチンパンジー

アイ(奥)がコンピューターの画面で触る色を見て、自分も画面上で同じ色を選ぶアユム=愛知県犬山市で

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 チンパンジーは仲間(なかま)の行動(こうどう)をまねる−。こんな能力(のうりょく)があることが研究(けんきゅう)室の実験(じっけん)で明らかになりました。野生の観察(かんさつ)ではまねの報告(ほうこく)がありますが、研究(けんきゅう)室で確(たし)かめられたのは世界(せかい)で初(はじ)めて。チンパンジーの研究(けんきゅう)は、人類(じんるい)の進化(しんか)の様子(ようす)を浮(う)かび上がらせるのにも役立(やくだ)ちそうです。

<どう実験>選んだ色を画面で触る

 この能力(のうりょく)を証明(しょうめい)したのは、愛知県(あいちけん)犬山(いぬやま)市にある京都(きょうと)大霊長類(れいちょうるい)研究所(けんきゅうじょ)(霊長研(れいちょうけん))の松沢哲郎教授(まつざわてつろうきょうじゅ)ら。研究(けんきゅう)に三年かけ、成果(せいか)を七月に発表(はっぴょう)しました。

 まねは実(じつ)は簡単(かんたん)ではありません。相手(あいて)の行動(こうどう)を理解(りかい)し、自分に置(お)き換(か)えるだけの頭脳(ずのう)が必要(ひつよう)だからです。

 実験(じっけん)に参加(さんか)したのは、漢字(かんじ)や数字の訓練(くんれん)を積(つ)んできた母親のアイと息子(むすこ)のアユム。

 実験(じっけん)では、部屋にコンピューターのモニター画面(がめん)二台が置(お)かれました。画面(がめん)には赤、緑(みどり)、黄色の中から二色が並(なら)んで表示(ひょうじ)されます。モデル役(やく)となった一頭は人間の指示(しじ)で二色のどちらかを触(さわ)ります。もう一頭は約(やく)二メートル離(はな)れた場所(ばしょ)で、相手(あいて)の行動(こうどう)を見ています。相手(あいて)が選(えら)んだ色を目の前の画面(がめん)で触(さわ)ると正解(せいかい)。リンゴのかけらが出てきます。二頭ともよくできました。

 モデルが選(えら)んだ色を、もう一頭が漢字(かんじ)で回答する、難(むずか)しい課題(かだい)も出されました。アイはこれも66%が正解(せいかい)でした。

 アフリカには、木の実(み)を石で割(わ)って食べる野生のチンパンジーがいます。子どもは見よう見まねでこの方法(ほうほう)を覚(おぼ)えていくことが報告(ほうこく)されています。松沢教授(まつざわきょうじゅ)は「まねることは学ぶこと。実験(じっけん)を通して、チンパンジーは仲間(なかま)の行動(こうどう)の意味(いみ)を深(ふか)く読み取(と)っていることが分かった」と語ります。

<頭の良さ>人間よりも高い能力も

 霊長研(れいちょうけん)ではアイを中心にチンパンジーを研究(けんきゅう)する「アイ・プロジェクト」が長年にわたって続(つづ)いています。

 このプロジェクトで、チンパンジーに漢字(かんじ)や数字を覚(おぼ)え、使(つか)う能力(のうりょく)があることをアイが証明(しょうめい)しました。子どものアユムは、画面(がめん)に一瞬(いっしゅん)だけ浮(う)かんだ数字の記憶(きおく)力が人間の大人よりもすぐれていることも分かりました。

 霊長研(れいちょうけん)は、他(ほか)のチンパンジーがあくびをするビデオを見て、自分もつられてあくびをしてしまう行動(こうどう)も確認(かくにん)して発表(はっぴょう)しています。あくびの伝染(でんせん)には、仲間(なかま)の「眠(ねむ)たいなあ」などという気持(きも)ちを同じように持(も)つだけの知性(ちせい)が必要(ひつよう)です。あくびの伝染(でんせん)は、ほかの動物(どうぶつ)では起(お)きませんし、人間やチンパンジーでも小さな子どものうちはしません。

 野生のチンパンジーは、石で木の実(み)を割(わ)るだけではなく、枝(えだ)を使(つか)ってアリを釣(つ)り、しわくちゃにした葉(は)っぱをスポンジ代(が)わりに水を吸(す)わせる行動(こうどう)も観察(かんさつ)されています。

 いずれもチンパンジーの頭の良(よ)さがほかの動物(どうぶつ)とは際立(きわだ)っていることの証(あか)しとなっています。

<研究から>祖先の心の推測に期待

 今の人間とチンパンジーは共通(きょうつう)の祖先(そせん)から六百万年ほど前に分かれ、それぞれ進化(しんか)してきました。生物(せいぶつ)の体を作る設計(せっけい)図であるDNA(ディーエヌエー)を分析(ぶんせき)すると、チンパンジーと人間の差(さ)はわずか1・2%。人間にとってチンパンジーは一番身近(みぢか)な「進化(しんか)の隣人(りんじん)」です。

 人類(じんるい)の化石(かせき)からは、私(わたし)たちの祖先(そせん)がどのように体のつくりを変(か)えてきたかが分かります。しかし、道具(どうぐ)の使用(しよう)や親子の関係(かんけい)など心に関(かん)するものは化石(かせき)には残(のこ)りません。それを解(と)き明かす糸口がチンパンジーです。今のチンパンジーが持(も)っている習慣(しゅうかん)や家族(かぞく)の関係(かんけい)を研究(けんきゅう)することで、数百万年前の人類(じんるい)の心を推測(すいそく)できるのです。

 世界(せかい)の研究者(けんきゅうしゃ)では今、チンパンジーが仲間(なかま)への思いやりや互(たが)いに助(たす)けたり、協力(きょうりょく)する心などをどの程度持(ていども)っているかを調(しら)べることが大きなテーマになっています。

 松沢教授(まつざわきょうじゅ)は「今回の研究方法(けんきゅうほうほう)を使(つか)って、遠くにいるチンパンジー同士(どうし)を協力(きょうりょく)させたり、相手(あいて)を思いやったり駆(か)け引きしたりする様子(ようす)を研究(けんきゅう)できるようになった」と話し、今後に期待(きたい)を寄(よ)せています。

 小学3年生までが学習していない漢字を中心に振り仮名を付けています。

 

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