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【なるほどランド】

食品にも放射性物質

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 福島第(ふくしまだい)一原発(ぱつ)事故(じこ)が起(お)きてから、放射性(ほうしゃせい)物質(ぶっしつ)による食品(ひん)への影響(えいきょう)が心配(ぱい)されています。横浜(よこはま)市や前橋(まえばし)市では、保護者(ほごしゃ)の声を受(う)けて、給(きゅう)食で使(つか)われる食材(ざい)について、放射線量(りょう)の測定(そくてい)を始(はじ)めました。私たちは汚染(おせん)された食品に、どう向(む)き合えばよいのでしょうか。

<どう影響>遺伝子に傷つく可能性

 体の中に取(と)り込(こ)まれた放射性物質による放射線被ばくを「内部被(ぶひ)ばく」と言います。放射性物質を含(ふく)む空気を吸(す)ったり、食べ物(もの)を食べたりすることで起きます。「体の中に入った放射性物質はだんだん減(へ)りますが、長い間放射線を出し、影響を与え続(つづ)けるものもあります」と「安斎(あんざい)科学・平和(へいわ)事務所(むしょ)」(京都(きょうと)市)所長の安斎(あんざい)育郎(いくろう)・立命館(りつめいかん)大名誉(よ)教授(じゅ)。放射線防(ぼう)護学が専(せん)門です。

 放射線は、細胞(さいぼう)の中の遺伝(いでん)子に傷(きず)をつける恐(おそ)れがあります。細胞には遺伝子を修復(しゅうふく)する能(のう)力がありますが、その能力を上回る放射線を浴(あ)びると、がんなどの病(びょう)気になる可(か)能性が高まります。子どもは細胞分裂(れつ)が活発なため、影響を受けやすくなります。

 どのくらい取り込んだかを測定する装置(そうち)もありますが、台数が限(かぎ)られ、多額(がく)の設置費(せっちひ)用がかかります。「だから内部被ばくに注意(ちゅうい)しなくてはならないのです」と安斎さんは話します。

 汚染された食品は、どの程(てい)度なら問題(もんだい)ないのか、目安(やす)が必要(ひつよう)です。そこで厚(こう)生労働省(ろうどうしょう)は、食品の中に含まれる放射性物質の「暫(ざん)定規制値(きせいち)」を、三月半ばに急(きゅう)きょ決(き)めました。汚染された食品も、このレベルであれば、食べ続けても健康(けんこう)に影響はないとしたのです。

<規制数値>土から汚染 警戒が必要

 規制値はどうやって決まったのでしょう。右下の図を見てください。例(たと)えば放射性のセシウム。国際(さい)放射線防護委員(いいん)会(ICRP)の勧告(かんこく)を踏(ふ)まえ、一年間に、五ミリシーベルトまでは体内に取り込んでも問題ないとしました。食品全(ぜん)体を「飲料(いんりょう)水」「野菜(さい)」など五グループに分けて、年間の上限(げん)である五ミリシーベルトを五等(とう)分。これに私たちがどのくらい食品を摂取(せっしゅ)しているかを考慮(りょ)して、決まりました。この数値を超(こ)えると出荷(か)が制限され、市場には出回りません。

 食品の汚染経路(けいろ)を考えてみます。例えば農(のう)作物。大気中の放射性物質が葉(は)や茎(くき)などに付(つ)く表面(ひょうめん)汚染と、植(しょく)物が土から放射性物質を取り込む場合の二通りが問題になっています。

 事故から時間がたち、農林水産(さん)省は土壌(じょう)からの汚染を警戒(けいかい)しています。作付け前に土を耕(たがや)すと、表面にあった放射性物質が、下の方に混(ま)ざってしまうからです。そこで五月末(まつ)、野菜や果物(くだもの)が放射性物質をどのくらい土壌から吸収(きゅうしゅう)するか、公表しました。「今後はデータを蓄積(ちくせき)し、より実態(じったい)を反映(はんえい)した数値を出したい」としています。

<取り除く>恐れすぎず、軽視もせず

 私たちは、放射性物質で汚染された食品とどう向き合えばよいのでしょうか。安斎さんは「過(か)度に恐れず、事態(たい)を軽視(けいし)せず」と呼(よ)び掛(か)けます。

 事故が起こってしまった以(い)上、「『少しの汚染も許(ゆる)さない』という反応(のう)では現(げん)実に対応(たいおう)できません」と安斎さん。「あの地域(いき)の野菜はいやだ」と、産地だけを見て拒否(きょひ)してしまうと、基準(きじゅん)を守(まも)って出荷している生産者を苦(くる)しめてしまいます。「その食品に、どれだけの放射性物質が含まれているのかを見てほしい」と話します。

 一方で、「放射性物質を体内に取り込まないことが基本」ときっぱり。少量の放射線を浴び続けた場合の危険(きけん)性がよくわかっていないからです。食べる前に洗(あら)ったり、ゆでたりすることで、自分たちでも放射性物質を取り除(のぞ)くことができます。「少しでも取り込まないにこしたことはない」と強調(ちょう)します。

 また、暫定規制値はあくまで緊(きん)急的(てき)に決められました。食品安全委員会は、遺伝による発がん性のリスクや、ウラン、プルトニウムを含めた基準の議論(ぎろん)を始めており、今月にもまとめられる予(よ)定です。

 全国消費(しょうひ)者団(だん)体連絡(れんらく)会の阿南久(あなんひさ)事務局(きょく)長は「こうした情報(じょうほう)に私たちも目を向け、一人一人が冷静(れいせい)に判断(はんだん)してほしい」と訴(うった)えています。

 

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