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【なるほどランド】

テントウムシ赤より黒!?

 冬の間じっとしていたテントウムシが、飛(と)び回る季節(きせつ)になりました。テントウムシといえば、背(せ)中にある赤と黒の水玉模(も)様がかわいい昆(こん)虫。でも最(さい)近、地球温暖(だん)化でその模様にちょっとした変(へん)化が起きているといいます。気温の上昇(しょう)とテントウムシの関(かん)係を探(さぐ)ってきました。

<模様は?>普通タイプでは4種類

 温暖化の影響(えいきょう)を受けているのは、体長五〜八ミリほどの小さなテントウムシ「ナミテントウ」。日本では、ナナホシテントウと同じくらい普(ふ)通に見られる種類(しゅるい)です。ナミテントウは背中の模様に特徴(とくちょう)があります。研究をしている京都産(きょうとさん)業大教授(じゅ)の野村哲郎(のむらてつろう)さんは「ほかのテントウムシと違(ちが)い、全部で四種類あるんです」と話します。

 三種類は黒地に赤いホシがあるもの。ホシの数の違いから、二個(こ)が「二紋型(もんがた)」、四個が「四紋型」、十二個が「斑(まだら)型」と呼(よ)ばれています。そして最後が赤地に黒いホシがある「紅(べに)型」。野村さんは「この違いは、人のABO式の血液(えき)型とよく似(に)た遺伝(いでん)の仕組みで、四つの遺伝子の組み合わせで決まります」と説(せつ)明します。

<割合変化>温暖化進み 紅型少なく

 遺伝学の研究者だった駒井卓博士(こまいたくはかせ)(故(こ)人)は約(やく)六十年前、模様に魅(み)せられ、全国五十四カ所で四種類の割(わり)合を調べました。

 この調査(さ)で面(おも)白いことが分かりました。気温の低(ひく)い北ほど紅型が増(ふ)え、気温の高い南ほど二紋型が増える傾(けい)向があったのです。寒い北海道旭川(ほっかいどうあさひかわ)市は紅型が一番多く57・5%、二紋型が29・2%。一方、暖(あたた)かい長崎(ながさき)市は二紋型が84・2%で、紅型は4・4%のみ。真ん中の名古屋市は二紋型が57・8%、紅型が26・0%でした。駒井博士は、模様は「生息地の気温と関係する」と考えました。

 野村さんはこの調査を知り、二〇〇二年ごろから駒井博士が対象(しょう)にした地点を含(ふく)む全国九十六カ所で調べ始めました。気象庁(ちょう)の観測(かんそく)では、各(かく)地の平均(きん)気温はこの半世紀(き)で一〜二度上がっています。駒井博士の考えから、野村さんは「各地で過(か)去より二紋型が増え、紅型が減(へ)っているのでは」と予想を立てました。

 結果(けっか)は、予想の通り。ほぼすべての地域(いき)で黒い二紋型が増え、赤い紅型が減っていたのです。例(たと)えば、長野県諏訪(すわ)市では二紋型は56・3%から75・0%に増え、反対に紅型は28・8%から11・6%になりました。旭川市では昔は少なかった二紋型が42・6%に増えて最多になり、紅型が33・3%で二番目になりました。野村さんが名古屋市の名城(めいじょう)公園で捕(と)ったナミテントウも同じ。二紋型は現在(げんざい)70・1%に上がり、紅型は12・6%に落ちました。

 海で隔(へだ)てられている新潟(にいがた)県佐渡(さど)市でも調べました。「本州と三十キロ離(はな)れた島のデータは、ナミテントウが他の地域に飛んで移(い)動したという疑(うたが)いを消してくれます」と野村さん。データは、本州と同じように二紋型が増え、紅型が減っていました。野村さんはこれらの結果から「ナミテントウが温暖化に合わせて、模様を変(か)えた」と結論(ろん)づけました。

<仮説では>繁殖期有利 背中を選ぶ

 では、なぜ気温が高いと黒い二紋型が、低いと赤い紅型が増えるのでしょうか。野村さんは繁殖(はんしょく)期の活動に有利(り)かどうかが関係していると考えています。野村さんの仮(か)説は、夏の暑さが厳(きび)しい西日本と、少し涼(すず)しい北海道や東北地方に分けて考えます。

 ナミテントウは寒いシベリアが故郷(こきょう)。暑い夏は苦手です。西日本では真夏の猛(もう)暑に耐(た)えられず、「夏眠(かみん)」をします。葉の裏(うら)でじっとして、活動を止めるのです。そのため卵(たまご)を産(う)む繁殖期は夏ではなく春と秋になります。気温が下がるこの季節には、黒い背中が赤い背中よりも有利になります。太陽光をより多く集めるため体が温まり、早く活動できるからです。そのため、有利な二紋型が増えます。

 一方、涼しい北海道や東北地方ではナミテントウは夏でも夏眠せずに、活発に動きます。繁殖期も夏。その場合は直射(しゃ)日光で熱(あつ)くなる黒い背中よりも、赤い背中の方が快適(かいてき)に活動できて有利です。そのため紅型が多くなります。

 ただ最近は、寒い地域でも夏に気温が上がり、夏眠をするナミテントウが出たり、繁殖期が夏より早まったりするなど西日本の環境(かんきょう)に近くなってきました。そのため、こちらでも有利な二紋型が増えていると考えられます。

 野村さんは「ナミテントウは適した模様を選(えら)びとるという小さな変化で、地球温暖化にうまく対応(おう)しています」と感心しています。

 小学3年生までが学習していない漢字を中心に振り仮名を付けています。

 

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