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【なるほどランド】

コシヒカリに新品種

名古屋大などが開発した茎(くき)が太い新コシヒカリ。倒(たお)れにくくなり、収穫量(しゅうかくりょう)もアップする(松岡信(まつおかまこと)教授(じゅ)提供(ていきょう))

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 味はおいしいコシヒカリのままで、より多くを収穫(しゅうかく)できるコメの新しい品種(しゅ)を作り出すことに名古屋大と富山県などが成功(せいこう)しました。世界の人々が消費(ひ)するエネルギー源(げん)の第一位(い)がコメ。将(しょう)来の食糧危機(りょうきき)を防(ふせ)ぐためにはコメの品種改良(かいりょう)が欠(か)かせません。開発にはイネの遺伝(いでん)情報(じょうほう)の解(かい)明が役立っていました。

<どんな米>肉厚の茎で台風に強く

 コシヒカリは、日本で栽培(さいばい)されているコメの三分の一以(い)上を占(し)めるナンバーワン品種です。しかし、実ったころに強い風が吹(ふ)くと茎(くき)が折(お)れて倒(たお)れてしまう欠(けっ)点があり、収穫が減(へ)って品質(しつ)も落ちることになるため、農家を泣(な)かせてきました。

 名古屋大生物機能(のう)開発利(り)用研究センターの松岡信(まつおかまこと)教授(じゅ)らは、形や性(せい)質の99・9%がコシヒカリですが、倒れないように茎の部分だけは他品種の性質を受け継(つ)いだ新品種を開発しました。新コシヒカリの誕(たん)生です。

 利用したのは、家畜(ちく)用飼料(しりょう)品種である「ハバタキ」。イネの茎はストロー状(じょう)になっていますが、ハバタキはこの部分が肉厚(あつ)で、倒れにくくなっています。松岡教授らはハバタキから茎を厚くしている遺伝子「SCM(エスシーエム)」を見つけ、コシヒカリと交配させることで新品種を作り出しました。日本の消費者に抵抗(ていこう)の強い「遺伝子組み換(か)え」の技術(ぎじゅつ)は使っていません。

 松岡教授は「今までのコシヒカリより茎は16%肉厚になり、収穫量(りょう)は10%増(ふ)えた」と語ります。実験(けん)用の田んぼに植えられた新品種は昨(さく)年、周(まわ)りのコシヒカリが倒れてしまう台風でも負けずに立ち続(つづ)けました。

名古屋大などが開発した茎(くき)が太い新コシヒカリ。倒(たお)れにくくなり、収穫量(しゅうかくりょう)もアップする(松岡信(まつおかまこと)教授(じゅ)提供(ていきょう))

<カギは?>遺伝情報で効率アップ

 イネやヒトなどすべての生きものは、その形や性質などを遺伝子によって子どもに伝(つた)えています。同じイネであっても遺伝子が少しずつ違(ちが)うためにコシヒカリやササニシキ、あきたこまちなど品種の差(さ)ができます。

 イネの研究でトップクラスにある日本は各(かっ)国と協(きょう)力し、二〇〇四年に三万二千個(こ)あるイネの遺伝子の“暗号”を解(と)き明かしました。基準(きじゅん)となったイネは愛知県農業総(そう)合試(し)験場が作った「日本晴(にっぽんばれ)」。日本は全体の55%を担(たん)当するなど中心的(てき)な役割(わり)を果(は)たしました。

 暗号の解明に加(くわ)えて、それぞれの遺伝子がどのような働(はたら)きをしているかの研究も各国で進んでいます。背丈(せたけ)を低(ひく)くするものや、多くの種(たね)を実らせるようにするもの、ある種の害(がい)虫や病気への抵抗力などさまざまな役割の遺伝子が見つかっています。

 これまで品種開発は、長所を持った品種を交配させ、できた交雑(ざつ)種を多数育て長所を受け継いだと思われるものを選(えら)ぶ作業を繰(く)り返すことが必要(ひつよう)でした。

 しかし、今回松岡教授らは交雑種に必要な遺伝子が取り込(こ)まれていることを調べながら交配を進めました。イネの遺伝情報が解明されたことで、実る前にもそのイネの性質が分かり、効率(こうりつ)的になったのです。松岡教授らと新コシヒカリの開発に当たった富山県農林水産(さん)総合技術センターの蛯谷武志(えびたにたけし)主任(にん)研究員は「開発期間は十年が半分以下に、栽培する場所も温室だけで十分になった」と言います。

<なぜ開発>食糧危機へ収穫量多く

 全世界では今、十億(おく)人近い人が栄養不(えいようぶ)足に苦しんでいると言われます。さらに世界の人口は四十年後には二十億人も増えて九十億人と予測(そく)されています。世界の人々を飢(う)えさせないためには多くの穀(こく)物が必要です。

 同じように食糧危機が心配された二十世紀半ばには、「緑の革(かく)命」が起き、食糧事情の悪化を防ぎました。成長を促(うなが)す肥(ひ)料をたっぷり与(あた)えても茎が倒れないよう、背丈を低くする品種が開発されて収穫量を二倍にしたのです。

 しかし、背丈を今以上に低くすると、収穫量が減ることが分かってきました。このため、新しい品種に背丈を低くする遺伝子を組み込んでも多くの効果(か)は見込めません。倒れにくくするため松岡教授らが選んだのが、今回の茎を太くする方法(ほう)でした。

 コメは世界のおよそ半分の人々が主食としている重要な作物。松岡教授は「将来に備(そな)え、倒れず、病気、水不足や塩(えん)害にも強く、収量が多い新しいスーパーライスを開発する必要がある」と話しています。

 小学3年生までが学習していない漢字を中心に振り仮名を付けています。

 

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