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【埼玉】

124万市民の未来 さいたま市長選(中) 親の行動 停滞破るか

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 「可決されなくてホッとしました。子どもの命にかかわる詰め込み保育は、簡単にできることではありません」

 四月二十四日、さいたま市役所内の議会棟で開かれた市議会保健福祉委員会。六カ月の長男を抱えながら傍聴していた会社員の林亜里さん(34)=さいたま市緑区=が、安堵(あんど)の声を漏らした。認可保育所に入所する乳幼児一人当たりの面積を国の基準より緩和する市の条例改正案が、「継続審議」と決まった瞬間だった。

 この改正案は当面の待機児童解消策として、自民党市議団が同日の臨時市議会に提出した議案だった。市議団は「保育所の入所定員を二割ほど増やせる」と説明したが、林さんらは「子どもだけ増えれば保育士の目が行き届かなくなり、事故が起こり得る」と異議を唱えた。

 林さんは、認可保育所の増設を求める親らでつくる「さいたま・保育園のことを考える親の会」の代表を務めている。親の会は改正案が公表されるとすぐ、反対を求める要請書を市議会各会派に提出した。委員会では「慎重な議論が必要」との意見が過半数を占め、六月定例会で改正案を審議し直すことになった。

■ ■ 

 市内の認可保育所は二〇〇五〜一二年度に三十五カ所新設され、全体の定員は三千百七十人増えた。だが今年四月からの入所申込者のうち、一次選考で入所を認められない「不承諾」とされたのは千六百七十三人にも上る。納得できない母親たちは三月下旬、不承諾の取り消しを求めて市に審査請求をした。待機児童問題をめぐり、行政不服審査法に基づく県内初の集団申し立てだった。

 その一人が、看護師の平野智美さん(32)=さいたま市浦和区。東京都内の病院に勤めていた平野さんは、長女(2つ)の出産後に三月まで育児休業を取っていた。だが地元認可保育所への四月からの入所を認められず、毎日預けることができる認可外施設も見つからなかったため、退職するしかなかった。四月からは月十五万円かかる一時保育に預け、自宅により近い都内の病院で働いている。

 なぜ認可保育所の整備は追いつかないのか。市の担当者は「保育士は賃金が低いことなどから、なり手が少ない。首都圏では保育士の奪い合いになっている」と、保育士不足を理由の一つに挙げる。私立認可保育所の建設費は一億五千万円程度とされるが、国と市がその八割を負担することもあり、「どんどん増やすのは難しい」という。

 いつまでも解消されない待機児童問題は、さいたま市長選の争点に浮上した。「泣き寝入りはしたくなかった。私たちの行動が保育の現状を変えるきっかけになれば」と平野さん。声を上げ始めた親たちは、立候補予定者たちの訴えに耳を傾けている。

 <さいたま市の認可保育所と不承諾数> 市内の認可保育所に入所できない乳幼児数は、増加傾向にあるとみられる。市は、入所申請者のうち、一次選考で入所を認められなかった「一次不承諾」数のみを公表。それによると、2006年の一次不承諾数は1015人だったが、10年には1735人に増加。11年以降は1600人台で推移し、13年は1673人に上った。

 

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