ヨーロッパなのか、中国なのか。いったいどっちなんだ。キリスト教会に旧正月を祝う赤い提灯(ちょうちん)が揺れる。聖母マリアの絵は、なぜか観音さまの顔をしている。返還から10年。ポルトガル植民地の歴史が生んだ、目まいがするような混沌(こんとん)。それがマカオの魅力だ。
マカオ国際空港に深夜到着する直行便を降りて、市内へ。約15分で、あやしく揺らめく光の洪水が目に飛び込む。カジノホテルの豪華な電飾だ。「あのホテルは一晩に照明代が2000万円よ」とガイドさんが指さす。もとはカジノは一社独占だったが、返還後、米資本系カジノがあれよあれよという間に増え、30数軒に。今や米ラスベガスを抜き、売り上げ世界一という。
賭け事はからきしダメだが、ホテル併設のカジノへ行ってみた。シャンデリアに最新式のゲーム台。そして…、くわえたばこで目を血走らせた男たち。施設はきれいなんだけど、これって鉄火場? 地元の人いわく「みんな中国人。何年もためた稼ぎを一気につぎ込む。この間も全財産すった人がホテルで飛び降り自殺した」。中国人の金が米資本に流れる。ついに中国政府は、中国人がマカオへ行く制限を始めた。それでも、一獲千金の夢は消えない。
昼間の街はまったく別の顔をしている。
中国本土に連なる半島と二つの島からなるマカオは東京都世田谷区の半分の大きさだ。一番端のコロアン島は、ビルが林立する中心地から、車でわずか20分。海がきらめき、花が咲き乱れる漁村。あまりの静けさに、耳が遠くなった錯覚に陥るほどだった。
隣のタイパ島は、ポルトガル風の石畳の小路が迷路のように連なる。商店街に干し肉や菓子の香りが漂う。声をかけてくる物売りもおらず、実にのんびり。広場で語らう恋人を見ているうち、眠気が襲ってきた。
現実に引き戻されたのは、二つの島の間を埋め立てた新興のコタイ地区で、大型娯楽施設やホテルの建設工事の大半が中断していたのを見た時。世界金融危機の波は、やはりここにも来ていたのだった。