豊かな生態系をはぐくみ、二酸化炭素(CO2)吸収に多大な役割を果たす森林。良質な管理でその付加価値を高めている人たちを顕彰する第55回中日造林賞(中部日本治山治水連盟、中日新聞社主催)の受賞者が決まった。中部9県から各県1人が、優良造林地の部(林齢4〜40年生までの造林地を評価)と造林功労者の部(地域の林業振興に尽力)でそれぞれ受賞した。贈呈式は25日、名古屋市中区の中日新聞社で。同賞は今回で最後となる。受賞者の業績と喜びの声を紹介する。
※中日造林賞は第55回で終了いたしました。
大桑 透さん(67) 浜松市天竜区
「山から逃げないこと。苦しいときも山はいろいろと教えてくれます」。林業経営の安定・合理化を目指して低コスト林業を実践、安定した収入の一部にと「森林農業」を取り入れて地域での普及に努めた。
大学卒業後は会社勤めをし、28歳で家業の林業を継いだ。「私の師匠はおじいさん(祖父の儀一さん)なんですよ。父親(達雄さん)は戦争で負傷して入院がちだったので、小さいころから祖父に連れられて山を歩き、山の仕事を見てきました」と振り返る。
所有する森林はスギとヒノキの約70ヘクタール。山全体に作業路網が整備されている。10年ほど前に林業仲間らとグループを結成、県補助で林内作業車や林業機械を購入し、低コスト化を図っている。
森林農業の取り組みは25年になる。収入源の確保をと林地でサカキやシキミなどを栽培、仲間と地域を取りまとめながら販路を広げ、大きな産地に育て上げた。「国産材が見直されるときは必ずくると信じている。手入れをしっかりして次世代に引き継いでいかなければ」と気を引き締める。
和田 光雄さん(73) 岐阜県郡上市
「山には子が待っているような感じだ。ほっておけばつるが巻き付いて木が傷む。丹念に育てた自分の木が成長するのが楽しい」。育林に情熱を注ぎ、50年前の父に続く親子2代の受賞に輝いた。
1990年、タテイシという品種のスギ苗木3000本を1ヘクタールに植えた。以来20年、下刈りや雪起こし、枝打ちに励み、9割方が豪雪にも耐え、まっすぐな木に育っている。
「スギの挿し木苗を背負い、父と約4キロ歩いて植えた」という初の山仕事は小学5年のころ。父と一緒に山へ行くようになり、中学卒業後は父について林業に。「山づくりは良い苗木作りから。親木と同じ木が育つ挿し木苗が一番」と教わり、良い親木の挿し穂の採取など実践に努めている。
郡上市白鳥町の所有林約40ヘクタールで、広葉樹を伐採しスギ、ヒノキを植林。県指導林家に認定され、学校の森林教室講師も快く引き受けている。「手間を掛けたスギは広葉樹よりCO2吸収量が多く、保水力もある。環境に優しい森づくりを子孫が受け継いでくれれば」
新しい試みとして磨き丸太にも挑戦中だ。
造林功労者の部 | |||
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林野庁長官賞 | 大桑 透さん(67) | 浜松市天竜区 | 「低コスト化 成功」 |
中日賞 | 坂本 明さん(62) | 石川県穴水町 | 「能登の森を仕切る」 |
奨励賞 | 加藤 清さん(59) | 愛知県豊田市 | 「災害にも負けず」 |
横山 喜八郎さん(79) | 長野県上田市 | 「里山で10年活躍」 | |
優良造林地の部 | |||
林野庁長官賞 | 和田 光雄さん(73) | 岐阜県郡上市 | 「親子2代の栄光」 |
中日賞 | 青木 力さん(63) | 富山県南砺市 | 「スギを地道に管理」 |
野口 佳正さん(71) | 滋賀県甲賀市 | 「優良材を次世代へ」 | |
奨励賞 | 畑田 清治さん(74) | 福井県小浜市 | 「地域の財産守る」 |
浜田 耕輝さん(67) | 三重県紀北町 | 「多機能性を保つ」 |
中日新聞朝刊 平成22年2月19日付より