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【東京新聞フォーラム】

「大田区発 新『にっぽん都市型観光』」

 東京新聞フォーラムは東京都大田区「梅ちゃん先生」推進委員会と共催で六月三十日、大田区西蒲田の日本工学院専門学校・東京工科大学大講義室で大田区の見どころやグルメ、街歩きを中心に、観光面の取り組みにスポットを当てた「大田区発 新『にっぽん都市型観光』」(協賛・学校法人片柳学園、城南信用金庫)を開催した。「都市を舞台とした新しい観光」をテーマに帝京大学の大下茂教授が基調講演した後、評論家の山田五郎さん、蒲田図書館の三橋昭館長、蒲田東地区自治会連合会の小山君子会長、大下教授の四人のパネリストが、田中哲男・東京新聞編集委員の進行で興味深い話を披露。最後に、地元蒲田を舞台にしたNHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」に出演中の岩崎ひろみさんのトークショーが行われ、満席の聴衆は熱心に耳を傾けていた。 (会場写真は、淡路久喜撮影)

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【主催者あいさつ】「訪日客増やしたい」大田区長・松原忠義

 大田区では「梅ちゃん先生」を契機に、区の観光をどのように盛り上げるかが大きな課題になっています。また、一昨年から羽田空港が再び国際化され、大田区は国の訪日外国人旅行者受け入れの戦略拠点にも位置づけられています。本日は、都市型観光と国際都市をテーマに、都市の観光に造詣の深い方や地元の方にご参加いただき、東京新聞と一緒に初めてのフォーラムを開催します。実りのある会になることを心から期待しております。

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【主催者あいさつ】「まちづくり一緒に」東京新聞代表・仙石誠

 近年、都市観光も行政の重要な柱になってきました。「梅ちゃん先生」で大田区と蒲田が一躍注目されるようになったのは大変結構なことです。東京新聞は東京の地元紙として、ニュース報道だけでなく、地域の発展と、より楽しいまちづくりを皆さんと一緒に考える機会をつくることも、重要な役目だと思っています。本日は、基調講演、パネルディスカッション、トークショーと、盛りだくさんの内容をお楽しみいただきたいと思います。

【基調講演】「人と環境 生かして」大下茂氏

 現代は、情報誌やテレビ番組、観光パンフレットなど、町歩きの情報が飛び交っています。バブル崩壊後、観光が成熟化してきたのです。

 わが国の人口は徐々に減少していますが、過去にも人口が伸び悩んだ時代がありました。江戸中期から幕末にかけて、人口はほぼ横ばいでしたが、都市近郊に行楽地をつくり、「江戸名所図会(えどめいしょずえ)」で需要を喚起しました。

帝京大学教授・大下茂氏 おおしも しげる 2009年より総務省認定・地域経営の達人。地域、町づくりについて実践的な業務に携わる。平成20年度から大田区と品川区の広域観光町づくり事業スーパーバイザーを務める。

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 関東大震災から復興した昭和七年には、大東京に遊びに来てと四十ぐらいの観光地を売り出しています。大田区は穴守稲荷(あなもりいなり)、羽田の水郷と国際飛行場など、五つも出ています。

 都市型観光の特徴は、交通利便性、めりはりのある都市基盤、多くの文化的インフラ、町歩きに不可欠なトイレの充実、カフェ、レストランの充実、予期せぬエンターテインメント性です。

 観光はテーマが命です。「下田30COLORS(カラーズ) PROJECT(プロジェクト)」は、三十色・三十種類のしゃれたパンフレットで、表紙に「下田黒船物語」「ソウルフードを探せ」「雨の日でも遊びた〜い」などと書いてある。中は「雨の日」には美術館や博物館が出ているんですが、「美術館・博物館リスト」と書いたらだれも手にとってくれません。

 テーマの選び方には、既存のサービスをセットにする、選択の楽しみをパッケージにする、物語をつくる、移動そのものを楽しむ、「限定感」「高級感」「特別感」をうまく乗せるといった方法があります。

 町歩きに楽しみを加える方法として、名数法と収集法があります。

 名数法は三大何々とか、七福神、八景のようなもので、全部見て達成感を味わう。収集法は朱印帳のようなものです。

 すべてを見せないというのも大事です。近江八景や金沢八景は「秋月」「暮雪」「晴嵐」等、季節や時刻、天候が異なる。通年化、リピーター誘発など、よくできたシステムです。

 大田区はやっぱり知る人ぞ知る地域なんです。観光資源はたくさんある。地域ならではの必然性が加わることで、非常に強いものになります。人と環境を最大限に生かすことです。

JR、東急蒲田駅(中央)、京急蒲田駅(中央上)を中心に広がる蒲田の街。右上が羽田空港=本社ヘリ「おおづる」から(中嶋大撮影)

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【パネルディスカッション】「大田区 魅力七色」

 田中哲男(東京新聞編集委員) ちょうど区制六十五周年、NHKの朝ドラ「梅ちゃん先生」で脚光を浴びている大田区ですが、どんな町なんでしょうか。(まず大田区の航空写真をスクリーンに投影。青木毅観光課長の説明で幕開け)

 山田五郎さん(評論家) 田園調布のような高級住宅街も、町工場や銭湯が多い下町的な商工業街もある。東京のあらゆる要素が凝縮した町ですね。羽田空港を飛び立つ国際便の下で漁師さんが江戸前のアナゴを捕っているなど、他の区にはない独自の魅力にもあふれています。

 三橋昭さん(蒲田図書館館長) 大田区は、町工場地帯が軍需産業関連として終戦直前に大空襲を受け、焼け野原になりましたが、蒲田を中心に、見事な復興を遂げた元気のある町です。

評論家・山田五郎氏 やまだ ごろう 講談社発行の「Hot−Dog PRESS」(ホット−ドッグ プレス)編集長などを経てフリーに。町づくり、時計、西洋美術など幅広い分野で講演、執筆活動をしている。

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 東日本大震災の復興では、横の連携という町工場のすぐれた点を生かし、大田区の町工場同士が力を合わせ、「大田の輪」という土嚢(どのう)スタンドをつくって貢献しています。これに土嚢袋を立てかければ、瓦礫(がれき)処理などの作業が一人でできます。「大田の輪」は今あちこちで活躍しています。

 小山君子さん(蒲田東地区自治会連合会会長) 蒲田は、物価が安く、人情味があって庶民的です。羽田空港もあり、電車も大変便利で、とても住みやすい町です。蒲田に遊びに来た友人がよく、蒲田の昼と夜の違いにびっくりします。混沌(こんとん)としたところも蒲田の魅力です。もちろん夜の蒲田で食べたり飲んだりしても安いです。また戻ってきたくなる町、これが蒲田の強さです。私は蒲田を愛してやまない一人です。

 大下茂さん(帝京大学経済学部教授) すべての要素が凝縮されていて、「おもちゃ箱をひっくり返したような町」だと言う人もいます。

 でも、星飛雄馬のおやじみたいに、ただ、ちゃぶ台をひっくり返しただけじゃない。それぞれのエリアにきっちり秩序があり、それぞれが新しいものを求め続けてきたハイカラな町です。大田区は蒲田も含めて、ハイカラな町が幾重にも重なっている、すばらしいところです。

蒲田図書館長・三橋昭氏 みつはし あきら 図書館の所蔵する地域資料の紹介を積極的に行うと同時に、自らも地域の歴史を調べ、セミナーやフィールドワークを通して、蒲田や六郷(ろくごう)用水を紹介している。

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 田中編集委員 「梅ちゃん先生」を契機に取り組まれていること、さらなる活性化への思いを伺います。

 小山さん 町会、自治会、連合会や商店街、医師会、大田区、区議会など関係団体で、大田区「梅ちゃん先生」推進委員会を発足しました。情報共有を密にし、区外からの来訪者へおもてなしの展開と、区民の大田区への愛着の醸成を目的に活動しています。

 委員会では、昨年度は「梅ちゃん先生」の舞台地として、大田区の産業と観光を紹介する展示会、講演会を行い、「ステラ」特別編集版を作成しました。ことしは、情報発信の充実のほかに、実際に大田区に来て、見て、楽しんでいただくよう、展示会、スタンプラリー、商店街のセール等のイベントを開催しています。「梅ちゃん先生」関連のお土産品、お菓子、お酒もつくりました。八月初旬には恒例の大蒲田祭があります。ぜひ皆さんにお越しいただきたいと思います。

 三橋さん 六郷(ろくごう)用水の会として、四百年以上の歴史のある六郷用水を案内する町歩きガイドをずっとやっているのですが、この時期は観光協会さんと一緒に、「梅ちゃん先生」絡みの町歩きガイドをしています。ドラマの背景となる時代のイメージ喚起のため、医者の白衣を着たり、もんぺ姿をしたり、コスプレでディープな案内をしています。

蒲田東地区自治連合会長・小山君子氏 こやま きみこ 蒲田東口地区まちづくり協議会副会長や大田区赤十字奉仕団委員なども務め、町づくりや福祉・教育など多方面にわたり、地域の代表として活動している。

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 大下さん テレビ番組の効果は一過性ですが、地元が一体となり、ある方向で一生懸命やろうという意識が生まれたことは、今後につながる財産です。

 小山さん 大田区に来られた方に喜んで帰っていただくよう、おもてなしの心を地元の全員が持つ、これをこれからの一つのモットーにしたいと思います。

 田中編集委員 会場にお見えの東西商店街の理事長にもお聞きしたいですね。

 田中彰一・蒲田東口商店街商業協同組合理事長 今年はお中元などに梅ちゃん先生のロゴ入り景品を準備したり、大蒲田祭では女性みこしがもんぺ姿で繰り出すなど昭和のレトロなイベントも含めて商店街あげて頑張っています。

 (片山蔦榮・蒲田西口商店街振興組合理事長は緊急用件で早退。「梅ちゃん尽くしでがんばっていく」と伝言)

 田中編集委員 ほかにどんな試みがありますか。

 大下さん 観光庁が訪日外国人受け入れ環境整備事業で、東京都は秋葉原、銀座、蒲田を対象に選びました。羽田に近く、外国人も来やすい利点があります。ドル、元、ウォンで買い物できるお店をつくったら、おもしろいと思います。

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 山田さん 外国人観光客の中には、アニメや漫画、ファッションなど「クール・ジャパン」目当てで来日する若者が少なくありません。実は大田区には、漫画・アニメ系の同人誌即売会が開かれる産業プラザPiOという隠れた「オタクの聖地」もある。羽田からの利便性を強調しつつ、こうしたイベントを、池上本門寺をはじめとする歴史遺産や町工場のハイテクと合わせてアピールしてはいかがでしょうか。文京区や台東区にあるような、若い外国人観光客向けの格安宿泊施設を蒲田にもつくり、黒湯の入浴券つき宿泊プランを設ける。彼らは日本の歴史やハイテク、そして銭湯にも興味津々ですからね。

 三橋さん 松竹キネマの華やかな歴史を外して蒲田を語れないと思うので、個人的な夢として、区民が応募できるショートフィルム・フェスティバルも含めて、蒲田で映画祭をやりたいですね。

 田中編集委員 区の魅力は実に多彩です。ここでゲストに区のベスト10を伺います。最後に、大田区を元気づけるキャッチフレーズをお願いします。

 大下さん 「オタクのオオタク」

 小山さん 「元気のある、おもてなしの心を持った町、蒲田」

 三橋さん 「気取らないで行ける町、蒲田」

 山田さん いろいろな意味で「大きな区」。

 田中編集委員 大田区はまさに宝の山。本日のフォーラムを機に区の素晴らしさを全国にアピールし、皆さんとさらなる飛躍を願って終わりたいと思います。

いわさき ひろみ 1989年にミュージカル「アニー」でのアニー役で注目を集める。96年にNHK連続テレビ小説「ふたりっ子」で主演を務め、その後テレビドラマ、映画、舞台と幅広く活動。

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【岩崎ひろみさん トークショー】「人情の厚さがある」

 NHK朝の連続テレビ小説「梅ちゃん先生」で三上康子役を演じている女優の岩崎ひろみさんが、この日のフォーラムの司会を務めた前田和美さんと、大田区の魅力について、トークショーを行いました。

 −岩崎さんにとって大田区のイメージはいかがですか。お子さんを含め、この辺で行ってみたいとか、食べてみたいところはありますか。

 区内在住の友達がたくさんいたため、学生時代よく遊びにきた思い出深い町です。最近では大田区のホームページ「子育てほっとカフェ」をのぞいてみたところ、子ども連れで行けるカフェや遊び場が載っていて、おしゃれなママのブログのように読みやすく参考になりました。子どもが住みやすい町づくりをしている区との印象を受けました。

 −大田区は人に優しいところなんですね。

 私は東京の下町エリアに住んでいますが、住んでいる人の心に触れることができる、人情の厚さのようなものがあります。「梅ちゃん先生」の撮影を続けていく中で、蒲田も下町の雰囲気を残した温かみのある町なのだと知りました。

 −訪れてみたいスポットは。

 大田区といえば黒湯でしょうか。区内の銭湯マップも「ここの湯、よさそうだな」と、とても興味深く拝見しました。主人も子どもたちも大きいおふろが好きなので、家族で銭湯巡りをしたいですね。

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【コーディネーターまとめ】「可能性秘めた宝島」編集委員・田中哲男

 大田区への思いが変わった。これまではちょっと地味な街といった印象だったが、フォーラムを通じて多くの可能性を秘めた“宝島”であり、区民がこぞって活性化に挑んでいることを知った。

 ゲストの四氏が挙げた「大田区ベスト10」が多彩で面白い。羽田空港を抱えた街、町工場の高い技術、食で世界一周もできる豊かなグルメ、シネマと文学の歴史に癒やしの温泉、さらに商店街数が日本一だったとは…。

 とりわけ、東日本大震災の復興の中から生まれた“土嚢(どのう)スタンド”には感動した。土嚢を立てかけて、二人がかりだった土詰め作業を一人で可能にした工夫は大田区らしい優れた技術で、偉大な貢献だと言いたい。で一句。

 <知られざる お宝あふるる 梅の里>

 

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