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【社会】

昨年の衆院選「無効」 一票の格差で初

 最大二・四三倍の「一票の格差」が是正されずに実施された昨年十二月の衆院選をめぐる全国訴訟の判決で、広島高裁は二十五日、小選挙区の区割りを「違憲」と判断し、広島1、2区の選挙を無効とした。同種訴訟の無効判決は初。ただ、混乱を招かないために無効となるのは、衆院選挙区画定審議会が改定作業を再開してから一年となる今年十一月二十六日を過ぎた時点からとした。

 筏津(いかだつ)順子裁判長は判決理由で「選挙権の制約や民主的政治過程のゆがみは重大。最高裁の違憲審査権も軽視されている」と指摘。格差の抜本的な是正に乗り出さなかった国会の怠慢を厳しく指弾した。

 被告の広島県選挙管理委員会は上告するとみられ、無効判決が確定しない限り選出議員は失職しない。一連の訴訟で小選挙区についての判決は八件目で、違憲判断は六件目。最高裁大法廷が他の訴訟と合わせて統一判断を示す見通し。

 二〇〇九年の衆院選について最高裁大法廷は一一年三月、各都道府県にあらかじめ一議席を配分する「一人別枠方式」による最大格差二・三〇倍の区割りを違憲状態と判断。昨年十一月に議員定数を「〇増五減」する緊急是正法が成立したが、昨年十二月の衆院選には適用されず格差は拡大した。

 筏津裁判長は、一一年三月十一日の東日本大震災を考慮し、国会での是正期間が「ある程度長い期間になってもやむを得ない」と理解を示したものの、最高裁判決から一年半という基準を示し「憲法上要求される合理的期間内に是正されなかった」と指摘。「事情判決とするのは相当ではない」と結論付けた。

 一方で「直ちに無効とすると、選挙区の議員が存在しない状態になる」と、一定期間が過ぎた後に選挙を無効とする「将来効判決」を選択。その時期を「十一月二十六日の経過後」とした。

 二つの弁護士グループが全国十四の高裁・高裁支部に提訴した。今回の原告は山口邦明弁護士のグループで、現状の議席の配分は人口分布に比例していないため、三十一都道府県で議員の過不足があり、選挙権の価値に不平等を生じさせたと選挙無効を求めていた。

 これまで五高裁(支部を含む)が「違憲」、二高裁が「違憲状態」と判断したが、いずれも無効請求は棄却していた。

 議員一人当たりの有権者数の最大格差は千葉4区と高知3区の二・四三倍。高知3区に比べ、今回の訴訟の対象となった広島1区は一・五四倍、広島2区は一・九二倍だった。

<解説>

 もはや司法が単に違憲を宣言するだけでは、国会の自浄能力は期待できない。あえて期限を区切って一票の格差是正を最後通告したのが、今回の無効判決といえよう。

 半世紀に及ぶ「一票の格差」訴訟で、無効判決が出たことは一度もない。昨年十二月の衆院選をめぐる一連の訴訟でも今月六日の東京高裁判決以降、五件の違憲判決が出ているが、選挙無効は回避している。

 行政事件訴訟法には、行政の決定などが違法でも、これを「無効」として取り消すと公益を著しく害する場合は、請求が棄却できる規定がある。「事情判決の法理」と呼ばれ、五件の判決もこれを準用している。

 だが、こうした寸止めの姿勢こそが、国会の「厳しくても事情判決止まりだろう」という甘い考えを許す一因との批判があった。

 今回の広島高裁判決は「もはや憲法上許されるべきではない事態に至っており、事情判決をするのは相当ではない」と明快に指摘。司法として最後の手段を取る上で採用したのが、一定の猶予期間が経過した後に初めて効力を生じる「将来効判決」と呼ばれる手法だった。この手法は、過去の最高裁判決でも一部の裁判官の補足意見で触れられており、直ちに無効とすると、その選挙区の議員が不在のまま、選挙区の是正が行われる矛盾に配慮したものだ。

 二つの弁護士グループが三十一選挙区で起こした今回の訴訟は、今月二十七日までに判決が出そろう。提訴から百日以内という、これまでの一票の格差訴訟よりも格段に早く判決を出す姿勢にも、司法全体の意思が感じられる。「判決が出るのが遅くて、次の選挙までに是正が間に合わない」といった国会の言い訳を封じる狙いがあるとみられる。

 三十一選挙区すべての訴訟で、上告の手続きが取られるとみられ、広島高裁判決が設定した十一月二十六日より前に、最高裁判決が出る可能性もある。国会に残された時間は限られた。 (横井武昭)

 

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