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【社会】

プロ超えた?コンピューター 現役棋士 無敗守れるか

賞金100万円を懸けた将棋ソフトとの対局。ネット中継され、延べ58万人が視聴した=10日、東京都渋谷区で

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 人間対コンピューター。その戦いがいま、最も白熱しているのが将棋界だ。ソフトはもはやアマチュアを超え、プロ棋士並みの強さに達した。脅威を感じた日本将棋連盟は八年前から、コンピューターとプロが許可なく対局することをご法度に。今月二十三日から都内で始まるプロとソフトの団体戦「電王戦」(主催ドワンゴ)は貴重な勝負の機会となる。チェスに続き、人間が苦杯をなめる日は近いのか。 (樋口薫)

 「え、これ詰むんですか、強すぎる…」。解説のプロ棋士がうなった。今月上旬、都内で五日間開かれた、将棋ソフトとの対局イベント。先着順の一般参加で、勝てば百万円がもらえるとあって、全国から強豪が駆け付けた。最終日の出場枠は徹夜組で埋まった。

 序盤は人間側が優勢になる対局が目立った。実はソフトに癖があり、特定の作戦を使えば有利になることが判明。インターネットで話題になっていた。だが、指し手の選択肢が狭まる終盤になると、ソフト側がことごとく逆転していく。

 愛知県瀬戸市から訪れた昨年のアマ名人戦準優勝者、井上輝彦さん(26)も大逆転負け。「プロより強い」と脱帽。結果は人間側の三勝百五敗と惨敗だった。

 将棋ソフトの開発に約四十年前から携わり、草分け的存在の滝沢武信・コンピュータ将棋協会会長(61)は「覚えたての子どもの棋力から、あと三年でトッププロに手が届くところまで来た」と感慨深げに話す。

 チェス界では一九九七年、コンピューターが世界王者のカスパロフ氏を破り、現在は人間の力を大きく超えている。相手から取った駒を再び使える将棋はチェスより選択肢が広く、ソフト開発はより難しい。

 現在のプログラムは、プロの対局データを大量に蓄積し、「教科書代わり」に判断する手法が主流。手法を確立したソフト「ボナンザ」のプログラムの仕組みが公開され、レベルが底上げされたことから、特にこの数年で飛躍的に強くなった。

 日本将棋連盟が「許可なくコンピューターと対局しないこと」と棋士に通知したのは二〇〇五年十月。直前の九月、若手実力者の橋本崇載(たかのり)八段(30)=当時は五段=がソフトとの対局で、予想以上の苦戦を強いられたことが背景にあった。以来、プロとソフトの対局は数回しか行われていない。

 連盟がソフトとの対局を大きなビジネスチャンスととらえているという一面もある。会長だった米長邦雄永世棋聖=昨年十二月に死去=は「コンピューターとの対局は商品価値がある」と考えており、勝負の場を「電王戦」と名付けた。

 昨年初めて開かれた電王戦で、その米長永世棋聖がソフトに敗れた。連盟は二回目の今年、棋界トップ10に入るA級棋士三浦弘行八段(39)ら五人を選抜。五つのソフトと戦う。米長永世棋聖は敗戦当時、既に引退しており、引退棋士や女流棋士でない現役プロが負ければ史上初となる。

 参加するソフトの開発者山本一成さん(27)は「もう開発者もどのくらい強いのか分からない。力を試すチャンス」と意気込む。

 棋界の第一人者、羽生善治三冠(42)も電王戦の記念対談で「強い人と指したい、というのは棋士の本能。ソフトとの対局でも、人間相手の時のように、どんなタイプなのか、なぜこの指し手を選んだのか、ということが見えてくるのか、興味がある」と、将来の対局に期待を寄せている。

 

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