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【神奈川】

川崎版で「うるみん」連載中

版画・高橋幸子

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 川崎をモデルとした街が舞台の小説「うるみん」が、東京新聞川崎版で好評連載中。原則的に毎週日曜日に掲載します。

 正社員の職が見つかるまでの腰掛けとして結婚式の代理出席のアルバイトをはじめた主人公・春香。ところが突然の異動を勧告され、社内で嫌がられる「泣き屋」部門に配属される事に。

 中国や朝鮮半島をはじめ、世界各国に存在し、葬式で泣く事を職業とする「泣き屋」になった春香は、差別や偏見など、さまざまな壁にぶつかりながら、徐々に働くことの意義、生き方、そして自らのルーツを見つめ直すようになります。登場人物たちが織りなす涙と笑いのヒューマンストーリーをお楽しみに。

 作者は川崎版の人物紹介コーナー「Kばん!」を担当している作家・結木貴子さん。

結木貴子さん

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 画と題字は木版画家・高橋幸子さんが担当。動植物をかわいらしいタッチで描く作品が人気の高橋さんの版画にもご期待ください。

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 結木貴子(ゆうき・たかこ) 法政大学大学院人文科学研究科文芸創作研究プログラム在籍。シナリオ「うるみん」で部落解放文学賞戯曲部門佳作。真野恵里菜さんの「黄昏交差点」プロモーションビデオのシナリオなどを手掛ける。

 高橋幸子(たかはし・さちこ) 木版画家。「こころの木版画」「寿限無」「歌」など、著書・作品多数。父は天才彫刻家と呼ばれた故・高橋英吉さん。逗子市在住。

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◆問題意識と表現力に期待

鎌田慧さん

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 結木貴子さんは、若い女性のフリーターが、職業紹介所で、葬式用の「うるみん」(泣き屋)を紹介される、という奇想天外なシナリオを書いて、彗星(すいせい)のごとくあらわれた作家である。

 評判になった映画「おくりびと」のような、遺族のケアに関わる仕事だが、ヒロインが沖縄のユタや韓国の「ムーダン」の伝統とつながっている「泣き屋」になって、社会と触れる、という作品だった。日本にも実際にある職業かどうか。

 鋭い観察力とユニークな視点、変化球で日本社会を描こうとする想像力あふるるシナリオ「うるみん」には、強靱(きょうじん)な精神と豊かな表現力が発揮され、大型新人の才能が躍如としていた。

 さまざまなひとたちが、カオスのような魅力的な町に暮らしているのだが、ここで差別の問題に切り込もうとする、著者の問題意識と表現力に期待する。かならずや傑作になると思う。新人に飛躍の場を提供した新聞社もなかなかのものだ。

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 鎌田慧 早稲田大学第一文学部露文科卒。新聞記者を経てフリーライター。「自動車絶望工場」「六ケ所村の記録」「ドキュメント 隠された公害−イタイイタイ病を追って」など、迫真のルポルタージュで知られる。

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◆従来にはない文学生む作家

中沢けいさん

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 結木貴子さんは2012年の春、法政大学大学院の文芸創作研究プログラムに入学した院生です。修士論文提出に替えて文芸の実作と副論文を提出することで修士号が取得できるプログラムで、単に文芸創作の技法を学ぶというだけでなしに、創作を通して文学の意義を学び、また社会の中の文芸という視点を養うことを要求されます。

 結木さんはこのプログラムで意欲的に学んでいます。関心に幅が広く好奇心に満ち、つねに新しいことにチャレンジしています。その結木さんが連載をされることをうれしく思っています。

 このようなすばらしい機会は、これまでにない新しい作家を日本文学に登場させることになると期待しています。生き生きとした視点を持つ結木さんの連載に皆さまのご声援をお願いします。

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 中沢けい 小説家。法政大学教授。大学院では文芸創作研究プログラムを担当。「海を感じる時」で群像新人賞受賞。著書に「うさぎとトランペット」「楽隊のうさぎ」など。「楽隊のうさぎ」は2013年秋、映画化される予定。

 

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