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2010年04月23日
活気と輝き、甘味が誘惑 自由が丘「トットちゃん」
「自由」という言葉に重みと輝きがあった昭和初めに〝誕生〟した東京・自由が丘。黒柳徹子さんが「トモヱ学園」でのユニークな生活をつづったベストセラー「窓ぎわのトットちゃん」は、先駆者が集った戦前の活気と、のどかさも描いた。
谷畑(やばた)と呼ばれた農村に移り住み、洗練された名を授けたとされるのは創作舞踊家の石井漠。東急東横線と大井町線が交差する駅前広場には、石井の書を刻む女神像が。払い下げの電車が教室だった学園の跡地はスーパーになり、自由教育の理念を伝える碑が残る。
路地をあみだくじのように進むと、雑貨やスイーツ店の甘い誘惑。体内コンパスはとたんに狂う。運河にゴンドラまで浮かべたショップ街「ラ・ヴィータ」の向かいは、大正末期の日本家屋を生かした茶房「古桑庵(こそうあん)」。トットちゃん気分で、道草を楽しもう。坂道に疲れたら、無料で循環するエコロジーバスが便利。廃油を燃料に民間有志が13年も前から運行する。
かつて小川が流れていた「九品仏川緑道」にはベンチが置かれ、ショッピングを楽しむ人が行き交う。緑道を〝上流〟に700メートル歩けば、トモヱ学園の生徒の理科や歴史の勉強の場になった「九品仏浄真寺」への散歩と同じルートだ。
「見渡すかぎり、菜の花畑だった」景色は低層の住宅街に変わったが、境内は大木が並び、トットちゃんが「流れ星が落ちてる」と信じた井戸も現存。古くから「願い事がかなう井戸」と言い伝えがあるとか。流行に敏感な商店街と、土と緑のぬくもり。不思議な調和が今も昔も「住みたい街」として人を引きつける。
(絵 ウシダ・キョオコ)
【ちなミニ】「地名が不謹慎」とする戦中の圧力にも屈しなかった街だけに、老舗も元気。創業77年の洋菓子「モンブラン」はモンブランケーキの「元祖」とされ、親交のあった洋画家東郷青児の作品が店内の壁や包装紙を彩る。