東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

猪瀬知事「僕の皮膚感覚」で政策 太陽光普及へ蓄電池補助

猪瀬都知事の事務所屋根に設置された太陽光パネル=東京都港区西麻布で(岩本旭人撮影)

写真

 東京都の猪瀬直樹知事が初めて編成した二〇一三年度予算案が、二十日から始まった都議会で審議される。スウェーデンやインドネシア一国に匹敵する予算規模を持つ巨大自治体のかじ取りに、新たな為政者の個性がどう反映されたのか。私たちの暮らしの変化は。本人と周辺への取材で迫った。 (都政取材班)

 西向きの屋根の上で太陽光パネルが冬の陽(ひ)を浴びている。東京都港区の静かな住宅街。猪瀬知事の作家としての仕事場だ。

 設置したのは東日本大震災の約一年前の一〇年春、副知事三年目だった。発電量三キロワットの機種で費用は二百四十万円。港区の補助を使い、百八十万円を自己負担した。

 刻々と変わる発電量を室内モニターが表示する。「真夏の晴れた日はそれなりに発電するが、雨の日や夜はゼロ。蓄電池がないと機能を発揮できない」

 蓄電池のパンフレットを見比べ、ある日、メーカーの担当者らを呼んだ。「おたくは家電量販店で蓄電池をいくらで売るんだ」。どの社の答えも百万円以上だった。「僕の皮膚感覚だと百万は切らないと普及は無理だ。自分でやってみないと分からないんだよ」

    ◇

 一月十八日に発表した一三年度予算案で、一番手に持ってきたのがこれだった。「家庭用蓄電池の購入費用を補助することにしました。蓄電池、みなさん知ってますか」

 総事業費九十七億円。自身の生活体験と都の環境施策がマッチした。国内の太陽光パネルは約百二十万件。蓄電池はまだ数千件とみられている。事業で見込むのは都内で八千五百件の利用。需要が増えれば市場価格が下がり、普及が一層期待できる。

 都には苦い前例がある。〇九年度に始めた太陽光パネルの補助は最初の二年間、PR不足もあって利用が伸びず、予算の70%しか消化できなかった。

 今回は事前にハッパを掛けた。「蓄電池を家電店で気軽に買えるようにしろ。知られていないんだから、PRにしっかり取り組め」

 新知事肝いりの事業だが、NPO法人「太陽光発電所ネットワーク」の都筑建事務局長はこうくぎを刺す。「まだ高価で性能が安定しないのに都民の生活に本当に役立つのか」。太陽光電力を買い取る国の価格が一キロワット時当たり四十二円と割高なため、蓄電して家庭で使うより、蓄電しないで売る方が得になるカラクリが、普及を妨げるという。

    ◇

 自然エネルギーをめぐる都の施策は大震災で変わった。石原慎太郎前知事の下では温暖化防止策の一つだったが、首都の電力の支えに位置付けられた。

 「経済を太陽光で賄えるわけない」「家庭のソーラー電気はミニマム(最小限)なこと」。原発重視の前知事の言葉からは、太陽光への思い入れは聞き取り難い。

 これに対し、猪瀬知事は「国内の電力需要を相当程度賄うぐらいの覚悟が必要だ」(著書「東京の副知事になってみたら」)。東京電力の老朽火力発電所の更新や地熱発電の拡大など「電力をつくる側」の改革を試み、今回は「使う側」の意識改革を促そうとする。

 「家庭やオフィスなどの電力消費が多い東京でやることに意義がある」。こう評価する慶応大大学院の小林光教授(環境政策論)は、欧州のエコ先進国並みに四割程度を自然エネルギーで賄うのは可能との立場だ。「過剰な電力を原発から受けていたことに、多くの都民が3・11で気付いた。史上最多票の信託を受けた知事が、個人の実践を生かして発信するのはタイムリー。エコ普及の正念場だ」と注目する。

 <都の蓄電池などの補助金制度> 家庭向けの蓄電池や事業所向けの燃料電池などの購入費を補助する。申請期間は2013〜15年度。主力製品の価格が150万〜200万円の蓄電池は都と国と合わせて半額を補助する。電力使用量をモニターで「見える化」するシステムの導入が条件だが国の補助があり数万円で買える。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo