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米国同時多発テロの首謀者であり、テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン殺害計画の真相を、国家の機密情報を入手し、さらに関係者からの入念な取材に基いて制作された…と言われる問題作。陣頭指揮を執ったCIAの女性分析官マヤを通して描いていく。
監督は、爆弾処理班が戦争という麻薬に酔いしれていくさまを写しだした『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー。彼女の戦争に対する視線はブレない。仲間を殺害され、巨額の予算をつぎ込みながらも成果が挙がらぬ焦りの中で、マヤもまた狂気をはらんでいく。
2011年5月にビンラディン殺害のニュースが流れた際、多くのメディアがなぜ生きて捕らえなかったのか?を指摘した。本作はその理由の一つを提示する。「ビンラディンを必ず殺す」。予告編の中でも使われているマヤのこのセリフが象徴するように、彼らは殺害を目的に作戦を実行していたことが明かされる。しかもマヤの意地と執念によって。
だが憎しみの連鎖は、悲劇しか生まないことは明らか。いまだアルカイダのテロ活動は止まない。そのことを強く印象付ける反戦映画である。★★★★☆(中山治美)
【データ】
監督:キャスリン・ビグロー
脚本:マーク・ボール
出演:ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク
2月15日から全国公開
(C)東海テレビ放送
戸塚ヨットスクールのその後を追った『平成ジレンマ』や、オウム真理教・麻原彰晃などを担当する弁護士・安田好弘氏に密着した『死刑弁護人』など挑戦的なドキュメンタリーを発表している東海テレビの斉藤潤一監督&阿武野勝彦プロデューサーコンビ。2人が長年追い続けている事件の一つが、この名張毒ぶどう酒事件だ。
1961年(昭36)に三重県の山里にある村で行われた懇親会で5人が殺害され、容疑者の奥西勝に死刑判決が下される。だが彼は無実を叫び続け、52年間も勾留されている異常な事件だ。斉藤監督らはこれまで3作、同事件のドキュメンタリーを制作したが、当の奥西本人に直接取材することはおろか映像に捉えることができない。そこで製作されたのが、奥西役を仲代らが演じる再現ドラマとこれまで取材した貴重な記録を組み合わせたドキュ+ドラマ。昨年6月に東海地区でテレビ放送されたものを再編集して映画版に仕立てあげた。
メディアの役割として本作の製作は、事件を再検証し、歪んだ日本の司法制度を追及する意義があったと思う。加えて今回ドラマを組み込んだことで、奥西を取り巻く家族の人生がより鮮明となり胸に迫るものがある。奥西は現在、八王子医療刑務所の病床にいる。実母と息子はすでにこの世を去ったという。このまま事件を終わりにしていいのだろうか?★★★★★(中山治美)
【データ】
監督・脚本:斉藤潤一
プロデューサー:阿武野勝彦
出演:仲代達矢、樹木希林、天野鎮雄、山本太郎
2月16日(土)から東京・ユーロスペース、全国順次公開
(C)012ピクチャーズネットワーク/日吉ケ丘ピクチャーズ
埼玉で開催されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭でスタートし、渡辺真起子のアジア太平洋映画祭最優秀助演女優賞受賞の朗報に続いてドイツ・ベルリン国際映画祭出品へ。一般公開を前に、あれよあれよと映画のプロによって評判が広がり、世界の舞台へと躍り出た稀なケースだ。
彼らが目に留めた理由は明らか。昨今の日本の若手の作品は世相を憂うしみったれた作品が多いのだが、本作は違う。中野量太監督は母子家庭で育った自身の境遇を基に、逆境も悲しみもすべて笑いに変換して痛快な現代版“家族の肖像”を撮り上げてしまったのだから。
母と娘2人で暮らす一家が主人公。ある日、浮気して14年前に出ていった父親がガンで余命幾ばくもないと連絡が入り、娘たちが見舞いに行くも一歩間に合わずに父は死去。葬儀に参列することになった2人が味わう修羅場をコミカルに描く。顔も覚えていない父の死に加え、突然現れた弟の存在など戸惑うばかりの2人。そっけない態度を叔父にとがめられた2人が大泣きする理由が愛おしい。これじゃ母親の教育が悪かったと誤解されるじゃないかと。この描写だけで、14年間の母娘たちの関係を表してしまった脚本が素晴らしい。
家族だからこその、母娘たちの容赦ない言動を引き出した演出も秀逸。恐らく監督は演出に妥協を許さぬドS。優秀な監督は皆、Sというのが筆者の持論である。★★★★★(中山治美)
【データ】
監督・脚本:中野量太
プロデューサー:平形則安
出演:渡辺真起子、柳英里紗、松原菜野花
2月16日(土)から全国順次公開
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