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ぎふ養生訓〈113〉 鼻

(2013年1月14日) 【中日新聞】【朝刊】【岐阜】 この記事を印刷する

人の匂い 健康状態で変わる

 イタリアの彫刻家で画家の大家ミケランジェロが、ある彫像を彫り終えた時、依頼者が鼻が高すぎると難をつけた。ミケランジェロは一握りの砂をひそかに手に取り足場を上り、鼻を削るしぐさをしながら砂をこぼし「いかがでしょうか」と言った。依頼者は「それで良かろう」と満足して答えたという。

 鼻は顔の中央に在るが、目や口のように能動的に動かない。それゆえ鼻は一種の尊厳さを表す。ミケランジェロが守った“鼻の高さ”とは人間が守るべき誇りや精神を表している。鼻は心の中にも在るのだ。

 鼻は人類の脳が発達するにつれ、鼻中隔が顔の外に押しだされ隆起した。その高低は気候に関係し、寒くて乾燥すると、鼻の粘膜と空気がより接触し湿度と温度を与えるように鼻が高く長く鼻腔(びこう)も狭くなり、暖かく湿度が高いと鼻は低く短く鼻腔も広くなった。

 鼻は匂いを感じる感覚器でもある。鼻腔の奥の鼻中核にある嗅球から匂いをつかさどる嗅覚神経の末端が伸び、吸入する空気から匂いを感知する。人間は、ごくわずかな量で匂いの性質、強度、好悪などを見分け、約1万種類まで嗅ぎ分ける。匂いは脳と連動し匂いを記憶し、また呼び戻す。

 人間の嗅覚は好ましい匂い、“香り”が好きだ。例えば香りの良い1杯のコーヒーを味わう前にその芳香を楽しむ。紅茶に浸したまろやかなマドレーヌの香りから、甘美な幼年時代からの回想に入るプルーストの有名な小説「失われた時を求めて」は20世紀を代表する作品と言われる。

 人類が火を知り、たき火に木をくべた時、芳しい香りを出す木を知った。香木である。香木は5万年の歴史があり、日本で香木をたいて香りを賞翫(しょうがん)する独特の香りの文化“香道”に発展した。ほのかな香りの日本文化だ。

 人間は敏感な嗅覚を持つが、自らもその人特有の微量な匂いを発散している。人間は類人類の中でも最も匂いが強く、人間の行動を無意識に制約し影響を与える。しかも重要なのは人の匂いはその健康状態で変わることだ。良い匂いを発散できるように健康的で好ましい生活習慣を持つよう気を付けたい。

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