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スポーツのしおり

(12)「疾風に勁草を知る」 たすきとともにつなぐもの

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 駅伝はたすきをつないでゴールする。しかし、走者がつなぐものは決してたすきだけではない。青学大の連覇に沸いた今年の箱根駅伝。8位に終わった山梨学院大の話を紹介したい。

 大会前、山梨学院大はあるTシャツを作った。創部30周年を記念し、OBで漫画家の高橋しん氏に依頼したもので、「29」のゼッケンを着けた者が「30」の走者にたすきを渡している。「これまでの29年を、次世代に手渡すという意味が込められているんですよ」。光田佳樹マネジャー=写真=がチームを代弁した。

 淡い紺青色は、よくある学生の青くささと映るだろうか。30年は駅伝の世界では決して長くはない。だが、彼らの思いと時間はこうやってつながっていく。

 4年生の光田さんは来年から、沿道で応援する側に回る。卒業後は地元の岡山に戻り、警察官になるのだそうだ。一度も箱根を走ることなくチームを去るが、「このTシャツは僕の自慢です」と胸を張った。

 1995年以来の優勝はならなかった。2年前に疲労骨折したオムワンバは控えに回り、走ることがかなわなかった。意地や悔恨。さまざまな思いを抱えて、誰もが次へ向かう。

 上田誠仁監督はよく「疾風に勁草(けいそう)を知る」と激励する。困難にあって、初めて本当の強さが分かるという故事は、このTシャツに添えられたフレーズと重なる。箱根には引き継がれていく物語がある。たすきとともにつなぐものが、ここにある。

 文・谷野哲郎 写真・淡路久喜 デザイン・高橋達郎 協力・山梨学院大学陸上部

 

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