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【社説】

公的年金積立金 危うい株式の自家運用

 厚生労働省は年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による株式の自家運用を解禁することを検討している。民間企業の経営に政治が介入するリスクは拭えない。

 GPIFは百三十兆円に上る厚生年金、国民年金の積立金を運用する世界最大級の機関投資家だ。日本の国内市場に占めるGPIFの株式の割合は7〜8%と、他国の公的年金と比較してもずばぬけている。

 株主総会での議決権行使や個別銘柄の選択、売買を通じ、国が民間企業の経営に口を出すことが懸念されるため、現行は自家(インハウス)運用を禁じ、民間の信託銀行などに運用を委託している。

 ところが今年に入り、厚労省は自家運用を解禁する案を審議会に提示した。

 経団連は「あまりに弊害が多い。強く反対する」との意見書を提出。働き手の代表である連合の委員も「GPIFが直接株主となることは、国による民間企業支配につながる」として猛反発する。年金の専門家も「政府機関たるGPIFが大株主として民間経営に多大な影響を与える」と批判した。審議会では反対派が多数を占めている。

 自家運用を解禁する理由について、厚労省はGPIFが市場の情報をより得られるようになり、運用能力が向上するほか、運用手数料が節約できることを挙げているが、説得力はない。

 GPIFは「リスクを軽減することができる」と自家運用に理解を求める。だが、そもそもリスクの高い株式の比重を増やしたのは安倍政権だ。債券が中心の資産構成割合を変え、株式比率を国内外合わせて50%に倍増させた。国内株式の比率を1%上げるだけで一兆円の資金が市場に流れる。株価を底支えする狙いがあったとみられてもしかたない。

 国内外の株価が下落した昨年七〜九月期には七兆八千億円、過去最大の運用損が出た。

 積立金は国民が拠出した保険料が原資だ。将来的に国民の年金給付に充てられる。このため、運用の目的は「もっぱら被保険者の利益のため」と法律に記されている。長期的に安全かつ確実に運用するべきお金なのだ。

 米国では、全国民が加入する公的年金の積立金は全額、国債で運用。市場の危うさを知っている。

 自家運用案は見送るとともに、株式が半分を占める資産構成割合をあらためて見直すべきだ。

 

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