きょうは「9.18事変」、大日本帝国の中国侵略戦争を記憶する日です。
この日にちなみ、『マンスリー 北京JAC』Japan Accountability Caucus for the Beijing Conference 第277号(2023年9月1日発行)に掲載してもらった小論をここに紹介します。
9月こそ戦争を反省する「非戦月間」に
乗松聡子
9月だ。日本では、1945年8月6日の広島、8月9日の長崎の原爆投下日につづき、昭和天皇ヒロヒトがラジオで降伏を告げた8月15日を中心に展開される年中行事のような「8月ジャーナリズム」が終わり、戦争のことなどまた誰も考えなくなってしまう時期だ。実はこの構造こそが日本の歴史認識の歪みを象徴している。
「広島・長崎」の日に被爆者に思いを馳せ、核兵器を許さない意志を新たにするということは重要であるが、これらは両方日本国内で起こった戦争被害である。米国の原爆投下責任を問う声はほとんどない。8月15日は、戦争責任者ヒロヒトがあたかも被害者であるかのごとく、放送を聴きながら市民がひれ伏し泣くシーンがTVで流される。このように、8月の日本は、責任の所在は曖昧なまま、日本の中だけで自己還流する戦争記憶の場となっている。
いわずもがな、中国を侵略し、その後米英など先発帝国主義国を相手にアジア太平洋全域に戦争を拡大して2千万人以上といわれる命を奪った責任は大元帥ヒロヒトの大日本帝国にある。私は、日本人として責任ある戦争記憶とは、この9月にこそあると思っている。1945年9月2日、戦艦ミズーリ艦上で日本の天皇と政府の代理として重光葵外相が、日本軍大本営代表として梅津美治郎参謀総長が降伏文書に署名した。連合国側は米国のマッカーサー元帥をはじめ、中華民国、英国、ソ連、オーストラリア、カナダ、フランス、オランダ、ニュージランド代表が署名した。
米国相手だけに負けたと思っており、中国に負けたとは思っていない現代の日本人の目を覚ますためにも、この日の帝国日本の惨めな降参ぶりこそ毎年見るべき場面であろう。翌日の9月3日、中国では「抗日戦争勝利記念日」として記念する。ロシアもこの日を「軍国主義日本への勝利と第二次大戦終結の日」として祝う。そして9月にはなによりもこの戦争の発端となった日本の1931年満州侵攻の日、「9.18」という重要な節目がある。この日を記憶している日本人はどれぐらいいるのか。この9月は、日本の植民地主義を象徴するジェノサイドであった関東大震災後朝鮮人・中国人大虐殺の100周年でもある。
自国中心の歪んだ歴史認識を持っているからこそ、軍産複合体の利益を代表する政府とメディアによるプロパガンダ作戦に流される。日本が侵略しこそすれ、侵略されたこともない中国を悪魔視し、恐れ、米国の言いなりに軍事予算増強や軍備拡大に同調し、基地押し付けによる沖縄差別を強化する。日本人の植民地主義は、それを克服しないことにはなくならない。日本がアジアの一員として責任ある国になるためには、日本人が大日本帝国の歴史を「やられた側」の目で学び直すことが求められている。8月15日のヒロヒトの降伏放送の日に頭を垂れて終わりではなく、9月全体を「もう二度と植民地支配も侵略戦争もしません」と誓う、非戦月間にしたらどうだろうか。
(以上)
戦艦ミズーリ上での降伏式。杖をついて歩く重光葵外相。 US National Archives チャンネルより |