日本発信のグランド・バレエ、東京バレエ団×金森穣『かぐや姫』全3幕 世界初演迫る~プレス向け公開リハーサル&囲み取材レポート
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金森穣 photo Shoko Matsuhashi
東京バレエ団が日本から世界に向けて発信するグランド・バレエ『かぐや姫』全3幕が、いよいよ世界初演を迎える。2023年10月20日(金)~22日(日)東京文化会館、12月2日(土)~3日(日)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館での上演を前に、報道陣に向けてリハーサル見学および演出振付を手がける金森穣への囲み取材が行われた。
■2年7か月におよぶ、時間をかけたクリエーションの軌跡
『かぐや姫』は、東京バレエ団が演出振付家で新潟・りゅーとぴあ専属舞踊団 Noism Company Niigata(Noism)総監督の金森穣に委嘱した新作バレエ。2021年3月にクリエーションが始まり、同年11月に第1幕、今年4月に第2幕を初演したのに続いて、このたび第3幕を加えて全幕初演を果たす。実に2年7か月の時間をかけた一大プロジェクトの完結である。
東京バレエ団『かぐや姫』第3幕リハーサル photo Shoko Matsuhashi
来年2024年に創立60周年を迎える東京バレエ団は、モーリス・ベジャール、ジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアンという20世紀を代表する巨匠振付家にオリジナル作品を委嘱するなど時代の先端を歩んできた。2015年から芸術監督を務める斎藤友佳理は、創設者の佐々木忠次の精神を受け継ぎつつ日本人振付家の新作にも意欲的で、このたびのプロジェクトが実現した。なお、金森は若き日に渡欧し、ベジャール、キリアンに学んだ。金森は、敬愛する師と交流が深い東京バレエ団からオファーを受けて「縁を感じている」(2021年3月の記者会見)と述べていた。
『かぐや姫』は日本の最古の物語文学「竹取物語」に想を得て、金森が台本を書き下ろして脚色を加えた。音楽は全編クロード・ドビュッシーの多彩な楽曲を用いる。日本の四季の情感を織り込んでいるのも特徴で、第1幕は春から夏、第2幕は秋が舞台となった。西洋の芸術と日本の伝統文化、現代的で自由な発想のダンスとクラシック・バレエの美が溶け合う物語バレエだ。
東京バレエ団『かぐや姫』第3幕リハーサル photo Shoko Matsuhashi
第1幕では、金欲に坑えない貧しい竹取の翁が、竹林で月から遣わされた謎の姫であるかぐや姫を発見する。かぐや姫と貧しい山村の働き者で孤児という設定の道児(どうじ)が恋に落ちる。だが、かぐや姫は宮廷からやってきた秋見によって都へ連れていかれる。
第2幕の主舞台は宮中で、帝や大臣、帝の側室が登場。なかでも影姫は幼くして身売りされた正室で、かぐや姫とは性格が光と影のごとく異なるが、ともに孤独を抱える存在として相通じる。
果たして第3幕はどのように展開し、波瀾万丈の物語はいかなる結末を迎えるのか――。
東京バレエ団『かぐや姫』第3幕リハーサル photo Shoko Matsuhashi
■いよいよ第3幕の振付が完成し、あとは世界初演を待つだけ!
さる10月6日(金)に東京バレエ団Aスタジオで公開リハーサルで披露されたのは『かぐや姫』第3幕の通し稽古だった。第3幕は全8場から成る。舞台は冬で、テーマ色は「白」である。
第1場は、かぐや姫(秋山瑛)が部屋から雪を見つめている場面で、彼女はそうするうちに深い眠りにつく。付属音楽「ビリティスの歌」より第7曲〈無名の墓〉に誘われれるように秋山が物憂げにまどろんでいく姿は儚いが、やはり並みならぬオーラを感じさせる。
東京バレエ団『かぐや姫』第3幕リハーサル photo Shoko Matsuhashi
第2場は、眠りについたかぐや姫の夢の中。道児(柄本弾)の幻が現れ、かぐや姫は喜ぶが、月の使者である光の精に阻まれる。続いて幻の帝(大塚卓)、大臣たち(宮川新大、池本祥真、樋口祐輝、安村圭太)も現れるが、彼らは皆、光の精にたちに連れ去られていく。そこでようやくかぐや姫は、夢から目覚める。悪夢を彩るのは、「夜想曲」より第3曲〈シレーヌ〉。ギリシャ神話に登場する海の怪物をモチーフにした不思議な響きが幻想性とドラマを強めて鮮やかだ。
第3場では、翁(木村和夫)が、かぐや姫に4大臣の誰かと結婚するように命じる。翁を第1幕初演時に演じた飯田宗孝(当時、東京バレエ団団長)が昨年逝去し、第2幕から翁を引き継ぐベテランの木村は、好々爺ではなく腹に一物を秘めた翁像をぶれることなく表現していた。音楽は、前奏曲集 第2集 第6曲〈風変わりなラヴィーヌ将軍〉である。
東京バレエ団『かぐや姫』第3幕リハーサル photo Shoko Matsuhashi
第4場では、秋見(伝田陽美)が空の4つの宝箱を手にして現れ、大臣たちに結納の品を持ってくるようにそそのかす。この秋見は伝田のために創られたような役柄で、長身が映え凛としつつ融通無碍な演技が光る。音楽は、弦楽四重奏曲 ト短調 作品10。
第5場の舞台は宮中。帝はかぐや姫に迫るが、かぐや姫は穏やかに拒む。音楽は「子供の領分」第5曲〈小さい羊使い〉。続く第6場で帝はかぐや姫に強く迫ろうとする。かぐや姫と山村で通じ合っていた道児も、帝の正室の影姫も孤独だが、帝も幼くして即位した孤独な権力者という役どころである。音楽は「子供の領分」の第4曲〈雪は踊っている〉。ここでは、大塚が帝の孤独の影と繊細な内面を浮き彫りにしていく。そして極めつきは、かぐや姫と帝によるパ・ド・ドゥだ。孤独な者同士ゆえに通じ合わない両者の溝は埋まらない……。
東京バレエ団『かぐや姫』第3幕リハーサル photo Shoko Matsuhashi
第7場は、交響詩「海」より第3楽章〈風と海の対話〉を用い、ドラマが急展開する。帝や大臣たち、道児も含む村人たらの思惑が入り乱れ、人びとは争い、血が流れる。世界は破滅へと向かうのだろうか。かぐや姫は止めようとするが、世界を救えるのだろうか――。
東京バレエ団『かぐや姫』第3幕リハーサル photo Shoko Matsuhashi
ついに迎えた最後の第8場のために金森が選んだ音楽は、ピアノ独奏曲「夢想」である。展開や演出については初演前なので触れないが、惹句にもあるように「かぐや姫はなぜ月に還ってしまうのか…?」が、ここで明かされる。感動的であるばかりではなく、今を生きる人間にとって強く刺さり、驚きと同時に得心できるであろう。第1幕初演から追っている観客、今回初めて観る人いずれも深い感慨を抱いて劇場を後にするに違いない。
東京バレエ団『かぐや姫』第3幕リハーサル photo Shoko Matsuhashi
■「いま日本から日本人の振付家によるグランド・バレエが誕生することの価値を、意義を、共有しに劇場に来てほしい」(金森穣)
リハーサル後、金森の囲み取材が行われた。
2年7か月をかけてのクリエーションで、しかも幕ごとに創作する稀なケースとなったが、結果的に大きな利点があったと述べる。「バレエ団の皆とお互いを知ることができました。もし一気に創っていたら、ここまでは行けなかったでしょう。振付家として舞踊家との信頼関係を築けたのが一番の価値だと思います」と胸を張る。
実際、東京バレエ団のダンサーから多くのインスピレーションを受けたという。「道児という役を考えたのは弾がいるから。働き者のキャラクターは弾を想像して台本を書きました。かぐや姫に関しては、瑛がファーストキャスト、(足立)真里亜がセカンドキャストで、ふたりとも凄く魅力があるけれど対照的なんです。そこでお互いにインスピレーションを得て、彼女たち自身がより成熟していくと、一人一人が演じるかぐや姫がもっともっと成熟していくでしょう。影姫の(沖)香菜子は影のある役をやったことがないそうですが、似合ってますよね」。
金森穣 photo Shoko Matsuhashi
台本を書いたのち、音楽を探して西洋の音楽に限らず日本の現代音楽も聞いた。全編ドビュッシーで行こうと決めた後は、台本のほぼすべての場面に合う曲が見つかったという。最後の場面に「夢想」を使ったのも、ぴったりだったからで「私自身も驚きました。時を経てドビュッシーと対話しているみたいでした」と振り返る。
音楽に絡めていえば、全幕初演に際し第2幕にかぐや姫と道児のパ・ド・ドゥを追加し「月の光」のオーケストラ版を使う。もともと第1幕で二人がお互いの距離を縮めていくパ・ド・ドゥがあり、そこでは「月の光」のピアノ版を印象的に使った。今回追加する第2幕の方は、道児が宮廷からかぐや姫を救い出し、二人で逃げようとする場面で踊られる。第2幕には「道児とかぐやの心理的なつながりがないから、これは絶対に設けた方がいいい。そこを新しく創ります」と明かす。
金森穣 photo Shoko Matsuhashi
今回の『かぐや姫』では、闇の力として黒衣(くろご)が登場し、重要な役割を果たす。「私の作品にはよく出てくるのですが、今回はかぐや姫にだけに見えている。ダークマターですね。目に見えないけれど、我々の存在、均衡みたいなものを動かし、バランスを保っている闇の存在として黒衣はいます」と説明した。
第3幕の第7場では人びとが争い、環境を破壊し、世界は破滅へ向かう様相を呈するが、カタストロフィーそのものを描くことに主眼はないと金森は強調する。「『かぐや姫』で提示したかったのは、すべてが、まさに夢として回帰していく、記憶に変わっていくことです。我々人間には、あらゆるケオティックな出来事を体験して、悲痛を、苦悩を感じるわけですけれど、それらを乗り越えていく強さがあって、同時にそれらが記憶になる。記憶として希釈して忘れ去られていったとき、また同じことを繰り返すのも人間の性ですし、そこが今回一番表現したかったことなんです」と話す。そして「かぐや姫は何のために来て、どのように月に還ったか」に関しての答えは「観客ひとりひとりの心にある」と語った。
金森穣 photo Shoko Matsuhashi
観客に向けてのコメントを求められると「群舞もあれば、パ・ド・ドゥもあるし、パ・ド・トロワも、パ・ド・サンクも、カルテットもあるので、全部の要素を詰め込んでいます。なおかつ物語があって、いろいろな主題がある。楽しめると思うので、一人でも多くの人に見に来てほしいです。Noismや金森穣を好きな人、東京バレエ団を好きな人の双方が満足できるものになっていると思います。何よりも、いま日本から日本人の振付家によるグランド・バレエが誕生することの価値を、意義を、共有しに劇場に来てほしいですね」と呼びかけた。
【プロモーション映像】東京バレエ団「かぐや姫」全3幕 世界初演
東京バレエ団との3年近い共同作業を通して演出振付家としての「経験値」を高めたと自負する金森。「未だしたことのない経験をさせてもらっています。どんな作品を創るか、どこで創るかは分からないですが、今後創るであろう作品に明らかにプラスにはなっていますね」と話すように、持てる力を存分にぶつけた。女性のパートに関しては、演出助手の井関佐和子の助言も大きいとのことで、東京バレエ団のダンサーにとっても自身だけでなく井関が現場に詰めていることによってクリエーションに「二つの視点」があることが大事だと指摘した。
ベジャールの『ザ・カブキ』『M』などで世界を席巻してきた東京バレエ団が『かぐや姫』をたずさえ世界に打って出る日は遠くあるまい。記念すべき初演への期待は高まるばかりだ。
【コンセプトムービー】東京バレエ団「かぐや姫」全3幕
取材・文=高橋森彦
公演情報
日程(2023年)
10月20日(金) 19:00
10月21日(土) 14:00
10月22日(日) 14:00
道児:柄本弾(10/20、22)/ 秋元康臣(10/21)
翁:木村和夫
影姫:沖香菜子(10/20、22)/ 金子仁美(10/21)
帝:大塚卓(10/20、22)/ 池本祥真(10/21)
上演時間:約2時間40分(休憩2回含む)
文化庁 劇場・音楽堂等の子供鑑賞体験支援事業
後援: 一般社団法人日本バレエ団連盟
日程(2023年)
12月2日(土)16:00
12月3日(日)14:00
道児:柄本弾
翁:木村和夫
影姫:沖香菜子
帝:大塚卓
上演時間:約2時間40分(休憩 2 回含む)
文化庁文化芸術振興費補助金(統括団体による文化芸術需要回復・地域活性化事業(アートキャラバン 2))
独立行政法人日本芸術文化振興会
※表記の出演者と出演日は 2023年5月10日現在の予定です。
【東京】 S:¥14,000 A:¥12,000 B:¥9,000 C:¥7,000 D:¥5,000 E:¥3,000
【新潟】SS:¥12,000 S:¥8,500 A:¥5,500
※クラブ・アッサンブレ会員は、各席種1割引。
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※NBS(WEB・電話)のみ
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座席指定はできません。座席指定券は公演当日のお渡しになります。公演当日、年齢が確認できる身分証をご提示ください。
●18 歳以下限定・子ども無料招待あり(東京のみ)
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/kaguya/u18.html
詳細は上記ウェブサイトをご参照ください。