連載
憂楽帳
50年以上続く毎日新聞夕刊社会面掲載のコラム。編集局の副部長クラスが交代で執筆。記者個人の身近なテーマを取り上げます。
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半世紀の覚悟
2024/6/25 13:13 452文字「90歳とかになって、たとえ体が多少不自由になっても演じ続けたい」。今年、舞台女優50周年を迎えた横浜市の女優・五大路子さん(71)を訪ねると、真剣な表情でこう語った。自ら率いる劇団「横浜夢座」も結成25周年。節目の年を迎え、女優としての覚悟がにじむ。 五大さんは横浜で起きた史実を題材にした演劇を
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存置と廃止のあいだ
2024/6/24 13:04 456文字死刑制度の未来は、存置と廃止の二者択一で論じていいのだろうか。過日、日本弁護士連合会主催の「死刑について考える」シンポジウムに参加する機会があり、多くの気付きを得た。 中でも、死刑に対する世論調査の読み解きには合点がいった。内閣府が実施した2019年の調査では、「死刑もやむを得ない」との回答が8割
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祖国に残した母
2024/6/22 13:09 453文字モスクワの「赤の広場」で5月9日に開かれた第二次大戦の対独戦勝記念式典。雪が舞ったこの日、赤いジャンパーを着て軍事パレードを見守った男性は「誇らしい」と笑った。古希が近いウクライナ系の男性は国籍もウクライナだという。ロシアによるウクライナでの「特別軍事作戦」が始まる数年前に高齢の母親を祖国に残し、
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安全装置
2024/6/21 13:10 451文字今月の欧州議会選でマリーヌ・ルペン氏の極右政党「国民連合」(旧・国民戦線)に大敗したことを受け、マクロン仏大統領は国民議会(下院)の解散総選挙という「賭け」に出た。 2016年に、ルペン氏の父で国民戦線創設者のジャンマリ氏を取材した。1回目投票で当選条件を満たせなければ、上位候補による決選投票が行
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決めつけない
2024/6/20 13:42 448文字「そちらの女性の方、どうぞ」。シンポジウムや記者会見の質疑など、知らない誰かを指す場面で、司会者が性別を口にするとハラハラする。他人の性別を断言して大丈夫なのか。 大抵は何事も起きない。でもそうした時思い出すのは、5年前、社会人として大学院に入学して受けた授業でのことだ。ゲスト講師に「そこの男性」
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ホタルの守り人
2024/6/19 13:16 449文字三重県名張市に「ホタルの守り人」と呼ばれる男性がいる。ボランティアでホタルを増やす活動に取り組む吉岡正夫さん(72)だ。吉岡さんがこの活動を始めたのは50歳になってから。今では、その手腕を聞きつけ、市内はもとより、県外からも支援を求められている。 吉岡さんは、ホタルそのものではなく、幼虫のエサとな
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宴会する縄文人
2024/6/18 13:04 465文字縄文時代にはニワトコ、サルナシなどの果実を発酵させた果実酒が造られていたという。それにちなみ、酒などの飲み物を入れる注ぎ口付きの土器を集めた「宴会する縄文人」展が新潟県村上市の「縄文の里・朝日 奥三面(おくみおもて)歴史交流館」で開かれている。会場を訪ねた。 村上市や近隣の遺跡から出土した土器13
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食で旅する
2024/6/17 13:04 437文字1年ほど前から犬を飼い始めた。まだ小さく、やんちゃ盛り。朝晩の散歩など、大変なことも多いが、日々の成長を楽しんでいる。 犬を迎えてから、旅行を控えることが多くなった。そんななか、遠くに行かなくても、旅の気分を味わえるのはうれしい。東京都内の百貨店には京都の老舗和菓子や沖縄の伝統菓子など、全国各地の
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80年前の数学ノート
2024/6/15 13:12 462文字沖縄県糸満市のひめゆり平和祈念資料館に1冊の数学ノートが展示されている。図形や平行線が精緻に描かれ、きれいな字で解説が記されている。「これ、授業で習ったよね」。来館した若い子たちからそんな感想が漏れる。 ノートは戦時中、那覇市の高等女学校に通っていた宮城祥子(よしこ)さんの遺品。1944年8月、沖
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「黒」の挑戦
2024/6/14 13:11 464文字JR九州が4月、博多―別府間(久大線など)を片道約5時間で結ぶ観光列車「かんぱち・いちろく」の運行を始めた。豪華寝台列車「ななつ星in九州」をはじめ、同社の観光列車はこれまですべてデザイナーの水戸岡鋭治(えいじ)さんが手がけてきたが、鹿児島市のデザイン会社「IFOO(イフー)」に初めて発注した。
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可視化された密室
2024/6/13 13:11 458文字犯人隠避教唆罪で有罪が確定した元弁護士の江口大和さんが、横浜地検で違法な取り調べを受けたとして損害賠償を求めた訴訟で、国が取り調べの録音・録画の映像を証拠提出した。約13分の要約版がユーチューブで視聴できる。 江口さんは逮捕から約20日間、黙秘した。これに対し、担当検事は「お子ちゃま」「どうしたら
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中東への懸け橋
2024/6/12 13:03 450文字カフェの店主は一体誰なのか。長く関係者の間で臆測を呼んでいた。「カフェバグダッド」。2004年6月にインターネット上に登場した匿名のブログで、「中東地域の食事や映画、文化に妙に詳しい」と評判になった。 店主は埼玉県在住の久保健一さん(56)だった。全国紙でカイロ、テヘランの特派員を計9年間務め、昨
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未来のために
2024/6/11 13:12 436文字使用済みの書道用紙(反故(ほご)紙)を回収し再生する。2011年に発足した一般社団法人「エコ再生紙振興会」(横浜市)が始めた「書道紙リサイクルプロジェクト」が今年度、小学4年の「書写」(光村図書出版)など教科書で初めて紹介された。 墨と紙の分離が難しいため、反故紙は古紙回収で敬遠されがちだ。大量の
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捜査の神様
2024/6/10 13:24 458文字「埼玉に『捜査の神様』がいる」。元検察幹部の言葉に誘われて、新緑まぶしい初夏の高麗神社(埼玉県日高市)を訪ねた。朝鮮半島の高句麗から渡来し、約1300年前に大和朝廷から郡の長官に任命されて、この地を開拓した高麗(こまの)王若光(こきしじゃっこう)を祭る。 捜査用語で「お宮入り」は事件の迷宮入りを指
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お尻くらい守らねば
2024/6/8 13:22 460文字「メリーズ」と「パンパース」。モスクワのスーパーでは、日本でもおなじみのこの二つの紙おむつを売り場でよく見かける。販売元はそれぞれ日本の「花王」と米国の「P&G」だ。 ロシアではウクライナでの「特別軍事作戦」を機に多くの外資が事業停止や撤退を発表し、市場では欧米企業などの商品の一部が「並行輸入品」
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「お墓参り」
2024/6/7 13:01 455文字自分とは無縁の墓を訪れるのが好きだ。 仏北西部ノルマンディーの海辺にある約9300人の米兵が眠る墓地もそうだ。80年前の1944年6月6日に第二次大戦末期のノルマンディー上陸作戦では、連合軍と防戦した独軍合わせて約10万人が戦死。芝生に整然と並んだ無数の白い十字架を前に、言葉を失ってしまう。 広島
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せめて制度は
2024/6/6 13:02 457文字性的少数者による日本初のパレードを報じた1994年8月29日の毎日新聞の記事には、見物人による同性愛者への否定的なコメントが掲載されていた。「『自分たちとは違う』と受け止めてしまいますね」。4月21日、30年の節目を迎え東京で開催されたパレードを取材し、データベースを調べて見つけた。 数日後、似た
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フライフィッシング
2024/6/5 13:05 451文字あと1カ月余りで40代最後の1年に突入する。だからなのか、長年、やってみたいと思っていたことを始めようと思い立った。三重県名張市で5月下旬に開かれた日本フライフィッシング協会中部支部主催の体験教室に参加し、さおの振り方や毛針の作り方を学んだ。 フライフィッシングとは、主にマスの仲間を狙う西洋式の毛
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銭湯を引き継ぐ
2024/6/4 13:08 455文字施設の老朽化と後継者問題で1年半近く休業していた新潟市西区の銭湯「旭湯」が5月、再開にこぎ着けた。1916(大正5)年創業の歴史ある老舗で、100軒以上を焼いた53年の大火で全焼したが再建された。昭和の雰囲気が漂う木造の平屋は長年、親しまれていた。 建築業を営む稲森光太郎さん(33)が受け継いだ。
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忘れ物と最新AI
2024/6/3 13:01 452文字先日、東京都内で地下鉄に乗った際、網棚の上に載せた手荷物を忘れて下車した。 地下鉄のお客様センターに電話をしたが、郊外に向かう私鉄と相互乗り入れしているその電車は、すでに地下鉄の営業エリアになく、「こちらではお調べできない」との返事。その電車を追いかけ、私鉄の問い合わせ窓口やターミナル駅に電話した
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