新疆公安ファイル

 中国新疆ウイグル自治区で少数民族のウイグル族らが「再教育施設」などに多数収容されている問題で、徹底的な取り締まりを指示する共産党幹部の発言記録や収容施設の内部写真、2万人以上の収容者リストや顔写真など大量の内部資料が流出した。この「新疆公安ファイル」からはイスラム教を信仰するウイグル族らを脅威とみなし、習近平総書記(国家主席)の下で徹底して国家の安定維持を図る共産党の姿が浮かび上がってくる。

新疆問題の基礎知識

記事一覧

CHAPTER1
流出した内部文書

=毎日新聞

 流出した内部文書は、ウイグル族など少数民族の収容政策を厳しく推進した新疆ウイグル自治区トップの陳全国・中国共産党委員会書記(当時)ら発言記録や、収容施設の管理マニュアル、不審人物がいないか調べた報告書など多岐にわたる。発言記録は「録音に基づきまとめた」とあり、文書としてまとめられる前の生々しい言葉が並んでいる。

#1 2017年5月28日、
陳全国党委書記の演説

 新疆ウイグル自治区トップの陳全国・中国共産党委員会書記(当時)が、2017年5月28日に開かれた自治区の「安定維持司令部」のオンライン会議で行ったとされる演説の発言記録。会議はイスラム教のラマダン(断食月)3日目に開かれた。記録からは陳氏がイスラム教徒の信仰心が高まるラマダン中の動静に警戒心をあらわにしているのが分かる。
 「情勢は安定している。皆が心血を注いだおかげだ」と謝意を示しながら、「ラマダンはまだ始まったばかりだ」と強調。「苦難を恐れず、疲労を恐れず、犠牲を恐れぬ精神」でそれぞれの責任を果たせと発破を掛けている。特に神経をとがらせているのは海外からの帰国者の動向だ。片っ端から捕らえ、手錠や覆面をつけ、必要なら足かせもしろと指示。「逃げるものは射殺しろ」とまで言い切っている。

1/6#1 2017年5月28日、陳全国党委書記の演説
2/6#1 2017年5月28日、陳全国党委書記の演説
3/6#1 2017年5月28日、陳全国党委書記の演説
4/6#1 2017年5月28日、陳全国党委書記の演説
5/6#1 2017年5月28日、陳全国党委書記の演説

 ラマダン中は重要人物に注意しなければならない。特に国内外の敵対勢力はラマダンを利用して(社会に)浸透し、破壊行動を行う。このような状況では重点的な監視が必要で、重要人物を漏らすことなく取り締まらねばならない。監視や取り締まりから逃れることを許し、国民の生命と財産を危険にさらすようなことがあってはならない。

 (敵対勢力、テロ分子に対しては)断固として対応し、壊滅的な打撃を与えよ。情け容赦は無用だ。

 暴力行為に関与した全ての人物、民衆の安全に危害を加える重要人物を捕らえなければならない。捕らえるべき者をすべて捕らえるのだ。罪状が極悪で許されない者には法に基づいて厳重に処罰し、重い刑を科す。(刑期が)5年以下であれば(過激思想から)抜け出させる。すなわち再教育だ。中国語や技術、法律を学ぶ。いつになれば「転化」するのか。いつになれば就職できるか。1年でだめなら2年。2年でだめなら3年。長期的な考えが必要だ。

 (中国共産)党と政府の思いやりを何千もの民衆に届け、人民が党の温かさを感じられるようにせよ。

 村に入って全ての家庭をカバーしなければならない。特に(収容施設に)収容された人の家族は絶対に差別してはならない。入党すべき者は入党させ、学校に行くべき者は就学させ、「恵民政策」を受けるべき者は受けさせる。もし困っているなら救済しなければならない。党と政府が自分を救ってくれていると感じさせる。(収容者の)子供には罪はないのだ。

 我々の警察の対処能力を引き上げることが重要だ。都市部では1分で、周辺では3分で到着するよう提起している。(新疆南部の)ホータン地区ではちょうど経験をまとめているが、ワンタッチ緊急通報システムで早ければ20秒、遅くとも40秒で現場に到着する。現場視察会をあす行う。戻ったら真剣に検討し、普及させよ。現在、遅れの原因は命令の伝達速度にある。指揮センターから地区の派出所に命令が伝わるだけで1分かかれば、手遅れになる。対処能力を上げ、早く、また適切に。死傷者ゼロがよい指標だ。テロ分子は全員殺害し、我が方の警察や軍警、人民の死傷者をなくすのだ。

 身柄を拘束する際には安全を確保しなければならない。特に海外からの帰国者は片っ端から捕らえるのだ。重大犯罪者の取り扱いに従い、まず手錠をかけ、覆面をかぶせろ。(新疆西部)クズルス・キルギス自治州の公安局は重大な過ちを犯した。一昨日、キルギスから帰国した者を(区都)ウルムチで拘束し数日間はなにごともなかった。その後、警察官がウルムチから(新疆南部)カシュガルの空港に連れ戻したが、空港にはたくさんの警察官がいて、護送する警察官も、出迎えた警察官もいたのに、荷物検査もしなかった。荷物には刃物が入っていた。頭をそるための刃物だ。なぜ検査しなかったのか。この警察官たちは何をしていたのか。多くの人がいたのに、何の措置もとらなかった。彼は犯罪分子だ。犯罪分子に対する情けは人民に対する犯罪だ。

CHAPTER1
流出した内部文書
全部で五つの内部文書を掲載しています
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CHAPTER2
収容施設の実態

 流出した写真は、主に新疆ウイグル自治区イリ・カザフ自治州テケス県の看守所(拘置所)の内部を撮影したものだ。当局側が訓練などの際に撮影したとみられ、そのほとんどが同じシリアル番号のカメラで撮影されている。自治区内で行われた制圧訓練とみられる写真もある。収容施設内部の写真がこれほど多く流出したのは初めて。

テケス看守所

収容者を取り囲む当局者。手錠や足元に鎖のようなものも見える。左の男性はこん棒を持っており、新疆を逃れた元収容者の証言内容とも一致する。撮影は2018年8月22日12時27分。

こん棒を持って収容者を取り囲む当局者。右側の壁には「日用品価格表」「1週間の献立」といった張り紙が見える。撮影は2018年8月22日12時27分。

収容者の腕に女性が注射のようなものを当てている。新疆を逃れた多くの元収容者は採血や何らかの薬物投与で注射されたと証言している。撮影は2018年8月25日11時26分。

視察中とみられる当局者。監房とみられる部屋には鉄格子が見える。撮影は2018年9月26日11時5分。撮影情報によると、カメラは他と同じだが、シリアル番号は異なり、別の収容施設の可能性もある。

監房とみられる部屋の前に立つ当局者。右の男性の腕には「SWAT 特警(特別警察)」のワッペンが見える。撮影は2018年9月25日16時28分。

監房とみられる部屋の前でこん棒を持って立つ当局者。奥には鉄格子の扉が二重になっているのが分かる。撮影は2018年9月25日16時30分。

2人の収容者のうち1人が手錠をかけられ、壁に向かって座らされている。撮影は2018年9月25日16時30分。前の写真の13秒後に撮影されており、一連の訓練とみられる。

手錠、足かせ、覆面をつけられ連れ出される収容者。前の写真と同じ収容者とみられる。新疆を逃れた元収容者も「移動のたびに黒い袋を頭にかぶせられた」と証言している。撮影は2018年9月25日16時31分。

CHAPTER2
収容施設の実態
全部で29枚の写真を掲載しています
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CHAPTER3
収容された人々

=ロイター

 流出した収容者リストは、新疆南部カシュガル地区シュフ県で、中国当局が「職業技能教育訓練センター」と呼ぶ再教育施設や拘置所、刑務所に収容された2万人以上の名前や生年月日、身分証番号、住所、罪状、収容先などの詳細な情報が並んでいる。イマーム(イスラム教指導者)の説教を何度も聞いたなど、テロとは直接関係のない理由で収容された人が目立つ。収容された人の顔写真は約2800枚に上る。

#114歳女性 ウイグル族

 シュフ県の生徒。当局の取り締まり運動で拘束された元幹部の親に事実上の「連座」の形で拘束されたとみられる。県内の「職業技能教育訓練センター」で「再教育」するとの記録がある。「捜査中の事案と関連する」人物に分類されている。
 両親は17年7月に拘束され、母親は「社会秩序を乱すために人々を集めた罪」で懲役6年の判決を受けた。コーランの厳格な適用を求めるイスラム教ワッハーブ派の思想を持ち、過激派の宗教的な演説や慣習を行っていた、と当局は分類している。
 資料では、父親はシュフ県内の元幹部とある。娘と同じ「職業技能教育訓練センター」に送られ、そこで「厳格管理」するとの記述がある。(年齢は撮影当時)

CHAPTER3
収容された人々
全部で4人分の収容された経緯などを掲載しています
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