特集 河井夫妻選挙違反事件

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河井夫妻選挙違反事件

19年参院選を巡る大規模買収事件で、河井克行元法相と妻の案里元参院議員の有罪判決が確定。現金を受け取った地方議員に厳しい目が。

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 2019年参院選を巡る選挙違反事件で、検察当局は20年6月18日、参院選で初当選した河井案里容疑者(自民を離党、広島選挙区)と、夫で前法相の克行容疑者(同、衆院広島3区)を公職選挙法違反(買収)の疑いで逮捕した。逮捕容疑の買収総額は約2570万円に上った。現職国会議員が夫妻そろって逮捕されるのは極めて異例で、買収容疑での逮捕は17年ぶり。

河井克行元法相(左)と案里・元参院議員
河井克行元法相(左)と案里・元参院議員

案里被告に有罪判決

 案里被告に対し、東京地裁は21年1月21日、懲役1年4月、執行猶予5年(求刑・懲役1年6月)の判決を言い渡した。判決は2月5日に確定し、当選は無効となった。

 判決によると、案里被告は19年3~5月、克行被告と共謀し、広島県議4人に現金計160万円を配った。判決は、いずれの県議も案里被告を応援しており、政治資金の処理に必要となる領収証もないことから、現金の趣旨は買収だったとした。

 一方、克行被告は3月25日、大島理森衆院議長宛てに議員辞職願を提出。衆院は4月1日の本会議で、辞職を許可した。

克行被告も実刑、控訴→取り下げ

 克行被告に対し、東京地裁は6月18日、懲役3年、追徴金130万円(求刑・懲役4年、追徴金150万円)の実刑判決を言い渡した。弁護側は即日控訴した。

 高橋康明裁判長は、地方議員ら100人に総額約2870万円を配ったと認定し、「選挙買収事件の中で際だって重い部類に属する」と理由を述べた。

 克行被告は10月21日、控訴を取り下げ、判決が確定した。克行元議員は弁護人を通じ、「できるだけ速やかに刑に服する決断をしました。全ての責任は私ただ一人にあります」とのコメントを出した。この時期に控訴を取り下げた理由について、控訴理由を記した書面を東京高裁に提出する期限が22日に迫っていたことを挙げ、衆院選期間中の自民党への影響を考慮したのではないかとの見方は否定した。

受領100人、全て不起訴

 東京地検特捜部は7月6日、克行被告と案里元議員から現金を受け取ったとして公職選挙法違反(被買収)容疑で告発された地方議員ら100人全員を不起訴処分にした。受領後に亡くなった1人を除いて、夫妻の買収の意図を認識していたとして起訴猶予とした。

克行・案里夫妻、どんな人?

 克行氏は、広島県議を1期務めた後、96年の衆院選で広島3区から自民公認で立候補し、初当選した。00年に落選を経験している。07年、第1次安倍改造内閣で副法相に。12年の党総裁選で安倍晋三前首相の推薦人に名を連ね、政権復帰を支えた。その後、首相補佐官や党総裁外交特別補佐を務め、選挙で安倍氏との近さをアピールしてきた。菅義偉首相の側近として知られ、菅氏を慕う無派閥議員の会を主宰。19年9月の内閣改造で初入閣し、法相に就任した。

 案里氏は、01年に落選中だった克行氏と結婚。03年の広島県議選で初当選した。09年には知事選に立候補したが、落選。11年に県議に復帰し、4期務めた。19年7月の参院選初当選後は、二階派に所属した。

参院選で菅義偉官房長官(当時)の応援演説を受ける河井案里議員=広島県尾道市のJR尾道駅前で2019年7月15日、渕脇直樹撮影
参院選で菅義偉官房長官(当時)の応援演説を受ける河井案里議員=広島県尾道市のJR尾道駅前で2019年7月15日、渕脇直樹撮影

自民本部から1億5000万円

 現職国会議員の河井克行・案里夫妻が同時に逮捕されるという異例の事態を招いたのは、19年参院選で改選数2の「2人区」独占を自民党本部が企てたことが発端だ。過去に2人を擁立して保守分裂を招いた党広島県連が猛反発する中、頭越しに擁立されたのが案里氏だった。

 今回の事件の原資として、党本部から案里氏陣営に提供された1億5000万円が使われたのではないかとの疑惑が取り沙汰されている。党本部が政党支部に選挙資金を振り込むことは法的にも認められているが、ある閣僚経験者も「天文学的数字のお金。普通の選挙じゃあり得ない」と異様な特別扱いに首をかしげる。

 自民党は1億5000万円の使途について、広島県内へのチラシ配布などに活用したと説明し、「公認会計士が厳格な基準に照らして事後的に各支部の支出をチェックしている」と理解を求めている。二階俊博幹事長は、夫妻側が受領したことまでは把握していると説明したうえで「その先がどうなったかは細かく追及していない」と述べ、使途の詳細を把握していないと説明した。

市長も、県議も、議長も…

 首長や議員ら地元政治家が次々と現金の受領を認めた。逮捕容疑の政治家への提供先は40人と判明。毎日新聞の取材にも、半数に当たる21人が認めた。ただ当初から「ノーコメント」を貫いたり取材を拒否したりする議員も少なくなかった。

 三原市の天満祥典市長は、00年6月23日の市議会本会議では「現金の授受はない」と明言していたが、25日に記者会見を開き、克行氏から計150万円を受け取ったと明らかにし、辞意を表明した。

 安芸高田市の児玉浩市長も克行氏から2回にわたり計60万円を受け取ったことが分かった。「1回目は当選祝いの意味で受け取ったが、2回目は買収行為だと思ったので返還した。断り切れなかった」と語り、30日に記者会見し、辞意を表明した。

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