連載
女の気持ち
女性読者からの投稿欄「女の気持ち」。「男の気持ち」とともに出来事や悩みなど「時代の心」を映しています。
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軒下の攻防 山口県周南市・東かおり(医療事務・53歳)
2024/6/26 05:30 560文字2階へ階段を上っていた私は、電線に止まっていた彼と目が合ってしまった。今思えばそれは軒下を借りるお伺いのあいさつだった。近くの田んぼに水が入った時から、戦いは始まった。家の1階外壁の丸形フード換気口の上に土泥がついている。見上げると、少しずつ積もっているような気がする。間違いない。目をつけられてし
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寂しい気持ち 大阪府熊取町・西川正子(主婦・82歳)
2024/6/26 05:29 541文字夕刻、買い物を終え、スーパーから出てふと見上げると、透き通るような青空の下、白い雲と紀泉山脈が連なっていました。その美しさに、夫の介護で疲れた心身がひととき解放され、穏やかな気持ちに包まれました。 息子家族が住む当地に引っ越してきて20年。小学生と幼稚園児だった孫たちもそれぞれ大学を出て社会人とな
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挿し木のバラ 福岡県古賀市・下田緑(主婦・66歳)
2024/6/25 05:07 570文字この季節になると、オルガンを弾く父と「バラが咲いたー」と歌っていた子供の頃を思い出す。古里を離れ、結婚後住むようになった官舎には1坪花壇もついていた。夫と植物園でピンクのミニバラを買い育てた。令和になり今の家に転居する時に鉢に植え替えたが、40年近くも私たちの目を楽しませてくれた。が、去年は酷暑の
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随想日記 大阪府吹田市・山口愛子(主婦・92歳)
2024/6/25 05:06 539文字私たち、長く生きています。夫は93歳、私92歳。結婚生活は67年になります。 夫は昨年脳梗塞(こうそく)を患いました。2週間入院しましたが、退院後はリハビリのため毎日のように公園や遠くまで歩いており、足はしっかりしています。ただ、時々、身近なことを忘れることが多くなり、お医者様には「病気のせいだか
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心の中の遊園地 東京都新宿区・井上公子(主婦・68歳)
2024/6/25 02:00 558文字以前、本紙「りえさん手帖」で西原理恵子さんが「女の子は誰もが心の中に自分の遊園地を持っていて、そこから出たり入ったりして遊ぶ」といったようなことを描いていたと記憶しています。 これは、その典型かな。 あるサークルで仲良しのお友だちがいます。毎回熱心に参加しているのですが、このたび急に欠席しました。
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水ギョーザ 福岡県上毛町・奥村寿子(74歳)
2024/6/24 05:04 562文字先月の本紙日曜くらぶに「水ギョーザ」が掲載されていた。亡父の一番得意な料理だった。戦争で旧満州(現中国東北部)にいる時に習ったようで、子供や孫たちが集合する時は、必ずと言ってよいほど登場した。 孫も娘もギョーザを作る時は机に着いて、生き生きと動くじいちゃんの指示を待つ。父は強力粉をこねて長さ30セ
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一番若い友達 東大阪市・辰巳弘子(主婦・80歳)
2024/6/24 05:04 528文字所属しているハイキングクラブの例会に参加するため駅の改札に入ろうとすると、後ろから突然声を掛けられた。 「おばさん、私を山に連れていってください」 振り返ると若い女性だった。「私は中国からの留学生です。山に行きたいです」と、たどたどしい日本語で言う。とりあえず電話番号だけ聞いて、その日は別れた。そ
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軽くなった財布 新潟県村上市・鈴木正子(無職・70歳)
2024/6/24 02:00 566文字長野へ1泊の一人旅をした。新幹線とホテルを予約、目指す美術館への長野駅からのバス路線を調べ、バス乗り場の位置や降りる停留所も頭に入れた。その後は在来線を乗り継いで信濃松川まで行くので、その時刻表も確認した。翌日の行程の下調べも抜かりない。70歳のおばあさんが誰にも頼らずここまでできたと自画自賛して
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道づれ 福岡県岡垣町・松本梨江(無職・86歳)
2024/6/23 02:01 565文字古机の引き出しに原稿用紙と鉛筆のストックがある。どう頑張っても使い切れるはずもないのに減ると補充。現代への適応が無理なアナログ人間の事情もあるが、原稿用紙と鉛筆は無二の思い出と共に終生の大切な道づれだ。 大昔、高校生の頃の私は部活の文芸部で、部員に不評のメルヘンをつづっていた。たった一人の理解者は
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行きたい所へ 長崎県佐世保市・楢崎真理子(72歳)
2024/6/22 05:07 553文字東京・神田神保町の古書店街が舞台の小説を読んだ。昨年訪れたばかりなので古書店巡りの記憶をたどりながら楽しんだ。そこは以前から行きたいと願っていた街だったので、道路の両側にずらりと古書店が並んだ風景は感動的で、今も目に浮かぶ。 次に読んだ本は熊本市内でカフェと書店を営む女性のエッセー集だった。郷土愛
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子育ての記憶 香川県土庄町・吉岡杉子(主婦・68歳)
2024/6/22 05:07 560文字「出生率1・20」の文字が朝刊1面の見出しにあった。過去最低だという。東京においては「0・99」とか。ため息が出る。そして、私はつくづくいい時代に子育てをしたなと思った。 私の子育てのスタートは東京。結婚してすぐに子どもが次々と生まれた。夫一人だけの収入だったので、決して豊かだったとは言えないけれ
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父の日の夕食 愛知県知立市・清水来瞳(大学生・18歳)
2024/6/22 02:01 540文字私の父は飲食店を経営しており、深夜に仕事を終えて朝に寝て、昼過ぎに仕込みに出かける。昔から変わらないこのスタイルのため、朝起きて学校へ行き、夜には寝ている私とは同じ家にいてもあまり会うことがない。 例年、私は父の日に、母や姉と協力して洋服をプレゼントしていた。しかし、誕生日にも父の日にも服をプレゼ
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次の課題 福岡県古賀市・原淳子(主婦・45歳)
2024/6/21 05:04 571文字最近涙もろくてしょうがない。更年期の気分の浮き沈みの波に乗っかり、思春期に入った小5の長男の態度に揺さぶられ、あおられ、小さな帆かけ舟のように波間を漂流している気分。子どもたちの成長とともに解放されていくことばかり思い描いていた未来が、実はそうではなかった。 成長期の長男はぐーっと背も伸び、体つき
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親知らず 神戸市西区・鷺野文子(主婦・65歳)
2024/6/20 05:15 555文字子供の頃から歯医者が大の苦手だった。待合室でもドア越しに聞こえる治療の音が嫌で、耳を塞ぎ、目を閉じていた。そして、自分の番になると口をまともに開けられず、昭和の怖い歯医者に叱られた。大人になっても変わらず、いつもガチガチに緊張して治療を受けている。 そんな私の「親知らず」はこともあろうに4本ともい
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片づけられない 山形市・安部裕子(自営業・73歳)
2024/6/20 02:00 543文字片づけられない人間には、二つのタイプがあるらしい。 在庫があってもさらに買い込みストックする「未来不安型」と、思い出のあるものが今は不要だとわかっていても捨てられない「過去執着型」。私は両方に当てはまると自覚している。 物価高騰が続いていることもあり、トイレットペーパーなど少しでも割引があると、今
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今がある 北九州市門司区・吉田三津子(主婦・75歳)
2024/6/19 05:07 549文字「お母さん、飛行機の中で読んでね」と手紙を渡された。長女の結婚式でハワイに向かう飛行機の中、窓の外は美しく青い空が広がっていた。 手紙には娘婿の提案で、結婚記念日に長年連れ添った夫婦が再び愛を誓う式「バウ・リニューアル」を子供たちからサプライズプレゼントすると書かれていた。驚いたが、誓う愛を感謝に
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豆ご飯 大阪市浪速区・林田就子(主婦・79歳)
2024/6/19 05:06 526文字用事があって娘の家に行ったときのこと。食事に豆ご飯を炊いてカレーを作ってくれた。なぜ、この取り合わせ?と思った。 その日はたまたま私の誕生日。娘が覚えていて、作ってくれたのだった。 私の実家は兼業農家で、家で食べる分の米や野菜は両親が作っていた。子供時代、私の誕生日の夕食は、取れたてのエンドウ豆の
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霧が晴れたら 東京都練馬区・雨宮由利子(無職・81歳)
2024/6/19 02:01 529文字私は実年齢も見た目も完全な後期高齢者だ。だが、あまりその自覚はなく、頭に浮かぶ自分はずいぶん昔の元気な姿。高いはしごに上って枝を切ったり、たくさんの買い物の荷物を背負い少々の道のりなら徒歩で移動したりしてしまう。 娘たちや孫たちからは「ママ」「あーちゃん」と呼ばれている。まだ誰からも「おばあちゃん
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脳活のために 福岡市西区・荒木雅子(73歳)
2024/6/18 05:09 557文字日記は、20代半ばの頃からしばしの間文通していた京都の方から日記帳をプレゼントされたのがきっかけで、古希を過ぎた今も続けている。 私の場合、つづるのは備忘録に毛が生えたような簡単なもので、病院の予約や知人の訪問日、各種支払期限などを書き留めておかないと即忘れてしまいがち。特に独居となって以降は、と
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33年ぶりの再会 兵庫県加古川市・岩田キミ子(無職・79歳)
2024/6/18 05:08 545文字今、自宅のパソコンの前に写真を飾っている。写真嫌いのはずなのに……。 写っているのは、先日、33年ぶりに再会した女性と私。健康なお母さんと、しわしわのおばあさんだ。 今年80歳になる私は、誰かと会う小さなイベントを考えた。真っ先に浮かんだのが彼女。理由は、彼女に「会社のお母ちゃん」と呼ばれていたか
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