T:遠野秋彦 I:インタビュアー
T こんなインタビューやるのはいつ以来? 2002年以来?
I そんなものです。
T 何が聞きたいの?
I 今になってラト姫物語を復刻する理由です
T その件ね。それは逆なの。実はラト姫物語第3版っていうのは何年も寝てしまったの。作業をさぼって。本当なら5年以上前に公開されていてしかるべきものだったの
I では、なぜ今になって?
T 理由はいろいろあるんだけど、ウェイトが大きいのはiPhoneとかああいう新しいメディアでPDFが読みやすくなってきたらしい、と言うことかな
I 電子書籍ブームですね
T そうそう。ならばPDFは既に作れる状態だったから公開しちゃえってこと
I どの段階まで進んでいたんですか?
T InDesignのファイルまでできていたの。あとはPDF書き出すだけ。簡単でしょ?
I では、2011年になって行った作業は何ですか?
T 校正、プロローグのカット、オマケの追加、出版元変更に伴う細かい作業などだな
I かなり量が多いですね
T 結果的にそうなってしまった。実は最終確認に使ったマシンの環境がおかしくて文書が表示できなくてね。Adobe Reader Xをアンインストールしてインストールし直したなんていう事件まであって、そりゃもう大仕事だった
I 校正といっても、とっくにできあがっていた本ではありませんか?
T でも意外と誤字が多く見つかったよ。縦書き時のハイフンとかの向きの問題もあるし
I なるほど。それではプロローグのカットとは?
T 実は、あとから追加で作ったプロローグがあって、それの出来が凄く良かったのだけど、これを削ってしまったの。最終的な判断として
I なぜですか?
T オチのネタバレになっていると気付いたから
I それは重要なことですか?
T 重要。びっくりできなかったら、あまり楽しくないでしょ?
I なるほど。ではオマケの追加というのは?
T ガレージキットの解説文はオフィシャルなんだ。けど、ガレキを買った非常に少数の人しか見てないのは問題だなと思ったから
I 出版元変更に伴う細かい作業というのは?
T 本当に些細な入れ替え。ピーデーのペンギンのマークをKIRARINのバナーに差し替えるとかね
I ペンギンはまだ残ってますね
T ガレキの宣伝がちょっと入ってるけど、それはピーデーの製品になるから
I では全般的にどうですか? 校正ということは全編を読み直したわけですよね?
T うーん。熱気は凄いけど、やはり幼いな。未熟である
I ということは、第4版はあり得るということですか?
T あり得る
I でも今回は第3版を公開しましたね
T ラト姫物語というのは、たぶん子供と大人の分水嶺を乗り越えたポイントにあったんだ。だから、少なくとも大人の領域にはある。もし子供の領域だったら即座に没だろう
I なるほど。最低限の水準はクリアしていると
T でも、読みながら全面改稿して徹底的に筋を通したいと思ってしまったよ
今後について §
I もうショートショートしか書かないのですか?
T それは分からない。未来は未知だ
I ということは、構想はあるわけですか?
T 無いわけではない
I どんな構想ですか?
T 下多怪土妖伝(シタカイドアヤカシデン)というのは、本来なら長編の企画であった
I もう宇宙には行かないということですな?
T 宇宙には行かない。過去にも未来にも行かない。それどころか、外国にすら行かない
I スケールが小さくなってしまう、ということですか?
T 問題は人間を描くことにあり、それを描くために十分なスケールがあれば十分なんだ。それを考えると、人間が把握できる範囲を超えた距離の差に意味は無くなる
I どういうことですか?
T 人間を描くにあたって、関東平野のサイズと全宇宙のサイズは事実上等価だってことだ。ならば誰も知らない宇宙を使うより、関東平野を使った方が説得力が出るだろう?
I じゃあラト姫物語も改稿したら関東平野の中で活躍する小説になりますか?
T さすがに過去があるので宇宙冒険であり続けると思う
I ではそろそろまとめに入りますか
T その前に一言。ラト姫物語というのは構想された時点ではナウシカだったということが良く分かった
I といいますと?
T ラト姫がナウシカでダ・ロクというのはミト爺だった。そして、大国の参集要請で小国が小部隊を出すのはコミック版ナウシカの構造と似通っている
I でも、途中からどんどん違う世界に行ってしまいますね
T それが誠実に人間を描く言うことだ。違う環境にいる人を描けば、どうしても違った行動を取ることになり、物語は変わってしまう
まとめ §
I では最後に一言
T 長編小説『ラト姫物語』第3版読んでね! あと、イーネマス! も読んでね! 今入手できる長編小説はこんなものかな
I それだけでいいのですか?
T 作家が能書きたれたらおしまいだよ。言いたいことは作品の中にあるものだ
I ありがとうございました