『アナベル 死霊博物館』80点(100点満点中)
監督:ゲイリー・ドーベルマン 出演:マッケナ・グレイス パトリック・ウィルソン
≪満足度の高いホラー≫
当サイト『アス』の批評のところでも少しふれたが、現代の米ホラー映画界では、日本では安っぽいと思われがちなオカルトや都市伝説的ネタというのがドル箱……とまでいかずとも掘り出し物がつまった宝庫扱いである。その原因はいくつかあるのだが、『死霊館』(13)の成功体験もその一つである。
あれ以来、本編以外にもスピンオフとしてアナベルシリーズなど、作り手たちは大きな商売に育ててきた。それは映画人としてはとても尊敬すべきことだと思うが、一方で時系列が作品ごとにあちこち飛ぶので、よほどのファン以外はそろそろ頭がとっちらかっているのではないかと思われる。
そんな中、この『アナベル 死霊博物館』は、時代的には『死霊館』(13)直後の物語ということで、おなじみのシリーズキャラクターが出てきてファン納得なわけだが、同時に本作から初めて見る人にも全く問題なく楽しめる作りになっている。
その心配りの丁寧さ、計算高さには舌を巻く。本当にあちらのホラービジネスにかかわる人たちは、商売がうまいし映画作りもうまい。
エド(パトリック・ウィルソン)とロレイン(ヴェラ・ファーミガ)のウォーレン夫妻は、これまで幾多の心霊現象を解決してきたが、その都度原因となった物品を自宅の奥深くに厳重に保管、メンテナンスしてきた。そんな彼らは、今回のペロン一家の相談の原因が、不気味な一体の人形にあることがすぐに分かった。過去に例がないほど強烈なパワーを感じたロレインは、その人形を聖なるケースに入れたうえで保管庫に封印するが……。
あらすじには書いたが、今回の主人公はこの夫妻ではない。彼らはすぐに家を用事で留守にする。代わりにこの家で過ごすのは、夫妻の娘ジュディ(マッケナ・グレイス)とシッターのメアリー(マディソン・アイズマン)、そしてその友人でなぜかオカルトに興味津々なダニエラ(ケイティ・サリフ)だ。
映画はこの3人(プラスアルファ)による、ドキドキワクワク、アナベル人形とのたのしい一夜、といったサバイバル劇となる。
しかしさすがはウォーレンの娘、ジュディは何かヤバさを感じているようだし、真面目なメアリーも悪さはしない。この二人だけなら何も起こらずおしまいだ。
ところがダニエラは、観客がやめろやめろと思うのに保管庫にこっそり忍び込もうとする。いったいお前はなにをやっているのか。試写室に鎮座するアナベル人形に毎度驚かされる、私のような(アナベルの怖さを知る)観客は思うはず。
むろん、その後はお約束の展開となり、3人は命の危険がいっぱいの一夜を過ごす羽目になる。
とはいえこれ、よくできているのは、初心者が最も嫌がるショックシーンは最小限、惨殺シーンも極少におさえながら、ホラーとしてのドキドキは上級者も十二分に味わえる作りになっていることだ。これなら中学生はもちろん、小学高学年でもなれた子なら見られる。日本では安定のG指定である。
主人公が若い女の子3人というのも、誰もが共感しやすい部分。キャプテン・マーベルの少女時代を演じていたのが記憶に新しいマッケナ・グレイスの、気難しそうに眉間にしわを寄せる表情は魅力があるし、ルックス抜群の人気者マディソン・アイズマン、一度見たら忘れられない個性的なケイティ・サリフもいい。それぞれに背景となるドラマがあるが、的確に描けているのも心地よい。
とくに、危険の原因を作ってしまうダニエラについても、ちゃんと観客として許せる演出になっているのが重要だ。
というのも、この映画のテーマはまさにこの「許し、赦し」にあるからである。
この、余計なことをして人形を出してしまうダニエラを観客に「許させる」事こそが、この映画の主目的であり、大きな仕掛けになっている。
これを私が断言できる理由については、この映画を2度ほど見れば誰でも気づくだろう。しかし日本一親切な映画ガイドとして国宝指定されることが確実といわれる超映画批評は、誰でも一度目でそれがわかるよう、ヒントを書いておく。
読者の皆さんが注目すべきは、序盤の過去シークエンスにおいて、ある事故車のそばにたたずんでいるのが誰か、である。これは、その後の展開の中でも結局説明されることはなく終わるが、非常に大事な箇所である。
そして、その後にトラックがウォーレン夫妻に突進する、妙に中途半端な恐怖シーン。なんだこれ? と思いがちだが、ここで運転手が語る、これまた何のためにあるのかよくわからないセリフがまた重要なのである。
この二つは、フツーにこの映画を見たらおそらくほとんどの人が振り返ることはないだろう。
だがこの二つの、パッと見あまり大事では無さげなシーンと、私が先ほどこっそりみなさんに教えたテーマ=「赦し」を組み合わせて考えれば、ラストのロレインとダニエラの会話シーンにいたる流れのすべてが、じつは綿密に計算された脚本である事がわかるはずだ。
ジュディといじめっこの関係もそうだが、すべてはこの、キリスト教圏における最重要な道徳を物語の主題に置く目的の伏線として張られている。
安直で凶悪な"怖がらせ映画"が量産される現代の中において、『アナベル 死霊博物館』は良心的といえるほど鑑賞後感のいいホラーだし、しかるべき解説者がいれば子供の教育にも良いほどである。
満足度の非常に高い、そして品質も高い映画であり、これをきっかけに死霊館ユニバースに入門する人も多いだろう。今のアメリカのホラー映画界の実力を堪能できる良作として、普段あまりこのジャンルを見ない人にもおすすめする。