『守護教師』75点(100点満点中)
監督:イム・ジンスン 出演:マ・ドンソク キム・セロン
≪マ・ドンソクの魅力全開≫
アクションスターは数あれど、韓国のマ・ドンソクの存在感は年々増すばかりである。私も注目しているが、『守護教師』はそんな彼の魅力を存分に味わえる学園ミステリだ。
元ボクシング東洋チャンピオンの実力を持つギチョル(マ・ドンソク)は、正義を通そうとした際の暴力をとがめられて職を失った。なんとか周囲の紹介で仕事を得たものの、それはとある地方都市の女子高の体育教師であった。独特の雰囲気にまったくなじめないギチョルは、同じようにどこか周囲から浮いている生徒ユジン(キム・セロン)を目にとめる。彼女は、最近頻発する女子生徒の失踪事件で、いなくなった友人をひとり探し続けているのだった。
韓国映画にはこういう、不気味な地方都市、郊外社会というものが時折でてくるが、本作もその独特の閉鎖性を舞台にしたスリラー、ミステリである。日本人にはなかなかピンと来ないが、だからこそ興味深く、面白い。
ユジンは、仲の良かった友人を探しているだけなのに、周囲からは浮いている。この町では失踪事件など、どうせ意味の分からぬ思考回路を持つ女子高生ならではの家出に決まっている。そんな空気である。だから警察も真剣に探す気などない。
彼女はそんな町全体をある意味敵に回し、一人で抗っている。そこにやってくるのが、マ・ドンソク演じるこれまた町にまったくなじめないオッサン教師というわけだ。
いくら排他的な町だからといって、こんな大事件を放置することなんてないだろうと驚きながら見ていると、マ・ドンソクだけがその観客の思いを代弁するかのような行動をとってくれるので非常に気持ちがいい。と同時に、彼への感情移入が高まってゆく。
そもそも、JKだらけの学園内にマ・ドンソクとは、冗談にもほどがある絵図である。しかもこの学校、なんとも扱いにくい女生徒ばっかりだ。気難しすぎるティーン女子とマッチョおやじのあなわさ具合といったらない。それをネタに笑いを取りまくる。マ・ドンソクが悪態をつくだけで、もう笑ってしまう。
最初はウザがられていたボクサーくずれのこわもて先生が、ただひとり面倒くさいJKの味方になって生徒の救出に向かう。そんな後半にはボクシングアクションが多数味わえる。重みあるパンチには説得力というものがある。動きも機敏だ。
また、彼のアクションで素晴らしいのは、バットでぶんなぐられてもびくともしない、負けない、しぶとい、その頑丈さである。細面のイケメンとは正反対の髭面にガチムチな肉体は、異様に防御力が高そうで、頼もしいのなんの。たとえナイフなどで刺されても、活動停止などするわけがない感がすごい。
彼は『ファイティン!』(18年)などでもそうだったが、ひたむきに鍛えてきたものの、世間の理不尽で転落したタイプの男が何より似合う。庶民目線で、常に弱者の味方であり、女性や子供には絶対に手を上げない。正しい生き方の安心感を伝えられる点が持ち味と言える。
相手役を務める女子生徒役キム・セロンも、かつては天才子役と言われた逸材だが、コメディシーン、シリアスなドラマとも完璧なコンビパフォーマンスを見せている。さすが、安心してみていられる。
旬のアクション俳優マ・ドンソクを見る映画というだけで満足できるのだが、シナリオにも二転三転の工夫がなされており、さらに満足度は高まる。
夏のアクション映画の中では、意外にも本作の満足度はトップクラスに高い。とくに、心優しい力持ち=ガチムチ系のファンは必見である。