「サンバ」65点(100点満点中)
監督:エリック・トレダノ 出演:オマール・シー シャルロット・ゲンズブール

日本にもつながる移民問題ドラマ

「サンバ」は、明るくコメディ色を前に出した予告編と、ヒット作「最強のふたり」のネームバリューに頼った宣伝から、軽妙な感動コメディ的なイメージが強いものの、そうしたものを期待していくと肩透かしを食らう可能性が高い。

フランスに来て10年になるアフリカ移民のサンバ(オマール・シー)は、ビザ更新のちょっとしたミスで国外退去命令という理不尽な命令を下される。そんな彼には移民を助けるボランティアのアリス(シャルロット・ゲンズブール)が頼りだったが、燃え尽き症候群で心のバランスを欠いた彼女もまた、サンバのタフで明るい心に励まされてゆくのだった。

「サンバ」はコミカルな場面もあるが、基本的にはきわめてシリアスな移民問題を扱ったドラマである。オマール・シー演じる主人公のサンバは、あれほど前向きで誠実な「よきひと」なのに、ほんの不運で転落人生を歩むことになる。その理不尽さと、それを修正しない、あるいはしようとしないフランス社会の事情というものを、きわめてディテール豊かに描いた佳作である。

こういう映画を、実情に即した宣伝広報ができないという点に、どこか寂しさを覚えてしまう。と同時に、そこを補完するのが当サイトのような正直一徹、読者至上主義の批評家の役目である。2015年も引き続きよろしくお願いいたします。

それはともかく、今年は天下のディズニー様が「マダム・マロリーと魔法のスパイス」なるラブコメで題材にした通り、「移民」というテーマが一つの全世界的トレンドとなっている。異文化、異人種との共生がいかに困難で、切迫した問題かということが映画界を眺めているだけで私にもわかる。現実でもアメリカでは白人警官の行動に端を発する人種間の激しい対立抗争が続いている。

そうした視点からこれをみれば、この映画が舞台としているフランスのみならず、全世界の人々に重要なヒントを与えていることは高く評価すべきである。もちろんそこには、移民大好き経団連が全面支持する第3次安倍政権が発足したばかりの日本も含まれる。この映画で絶望的な運命を強いられるサンバが、いつ日本に誕生するかもわからない。あるいはもうしているのか。

「サンバ」が優れているのは、主人公を救おうとするアリス自身も格差社会の中では底辺に位置する点だ。人材派遣会社の激務で身体と心を壊した女性との設定は、なかなか思わせぶりというか象徴的である。白人であろうと美人であろうと、新自由主義的格差拡大の波は、平等に襲いかかるということだ。

もちろん、そんな二人が助け合っても光は見えない。彼らが見つけようとする未来への梯子などあるのかどうか、文字通りお先真っ暗、である。

この映画が語る大事な点は、二人が探す新しいパイなど存在しないということ。増えることのないパイを奪い合い、偶然誰かがおとしたパイのかけらを拾うことが精いっぱい。それがあたかもラッキー、あるいは幸せかのように感じられる。それこそが強烈な社会への皮肉になっている。

そうした現代社会の本質を疑似的に、暗喩的に見せる本作の結論は、まさに今の日本人が見て考えるべき重大なテーマをはらんでいるといえるだろう。



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