「チェイス!」65点(100点満点中)
監督:ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ 出演:アーミル・カーン カトリーナ・カイフ

アンチエイジングなヒーロー

この映画を見てから主演のインドの大スター、アーミル・カーンが現49歳だと聞いて驚かない者はいまい。まさにインド映画界の誇る生きるアンチエイジング、アクション映画界の水谷雅子である。

父親のサーカスで生まれ育ったサーヒル(アーミル・カーン)だが、その愛する父は冷酷な銀行から融資を断られたことが原因で命を落とした。やがて成長し、自らサーカスのスターアーティストとなったサーヒルは、しかし父の敵であるシカゴの銀行支店を次々と派手に襲う裏の顔を持っているのだった。

バイクアクションを売りにしたシリーズの第3弾だが日本初登場ということで、シリーズのキャラクターやお約束などは一部伝わりにくいところがある。しかし、細かいことは気にするな精神により、上映時間も大きく短縮(それでも2時間27分ある)して、派手なアクションでガンガン押すパワフルな作品となっている。

再ブームとなりつつあるインド映画の日本国内普及期ともいうべき現在では、こうしたやり方もやむを得ないのかもしれないが、しかし今回ばかりは作品の魅力を大きくそいでいるように思えるのもまた事実。

アーミル・カーンはプロ意識の高い演技派であり、その魅力は中盤以降の重要なトリックにおいて発揮されてはいるが、本来彼に託されていたこの映画が持つ社会性、テーマの奥深さの表現は残念ながら相当失われた。

ノーテンキなド派手アクションムービー的な扱いを日本ではされているようだが、元々それだけではない作品だっただけに残念である。製作費は30億円以上、現代のインド映画でも最高峰にあたる大作だが、幾多のB級ものと同列に扱われてしまっては、ファンもつらいところだろう。

だがそれでもわずかに残ったこの作品のポテンシャルを、注意深い観客は感じ取れる。たとえば冒頭の銀行強盗アクション。アーミル・カーン演じる主人公が空からばらまいた札束を拾った地べたの物乞いが、彼にそれを返そうとする場面。

ここで主人公は笑顔で金を突き返すわけだが、ここはじつに思わせぶりなシーンである。そもそも銀行が集めた金とは、主人公にとっては奪われた父親の命そのもの。つまり、もともとは庶民から奪った金なのだから、物乞いが受け取るのは当然の帰結だといわんばかり。ここにこの物語の重要な主張の一つが感じられるし、きわめて現代的に見える。

バイクアクション自体は、ハリウッドの平均的なアクション映画に匹敵する程度の面白さはあるが、あちらのトップクラスのそれにはまだ及ばない。いくつか残ったダンスシーンも、たとえばオーディションシーンなど、違和感なく物語に組み込まれておりストーリーの流れを阻害しない。このあたりは、ごく普通の日本の映画ファンにもすすめやすいところである。

アーミル・カーンは体脂肪率9%の肉体を、正味2年かけて作り上げた。過去作品でも見事な肉体を披露しているので、維持していたというのが実態に近いだろう。当時48歳でこれほどのフィジーク。頭が下がる、じつにストイックな役者である。



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