「複製された男」70点(100点満点中)
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 出演:ジェイク・ギレンホール メラニー・ロラン
不穏な二度見系サスペンス
この世には3人自分とそっくりな人がいる、なんて都市伝説がある。くだらない迷信とは思いつつも、トム・クルーズやオーランド・ブルームと鏡を見比べていると、たしかにそれは正しいかもしれないと思わされる。
大学で歴史の講師をするアダム(ジェイク・ギレンホール)は恋人メアリー(メラニー・ロラン)といても満たされぬ日々を送っていたが、あるとき見たDVD映画の中に自分とそっくりな男を発見する。手を尽くしてその男アンソニー(ジェイク・ギレンホール 二役)とアポイントを取ったアダムだが、二人の邂逅は思いもよらぬ運命を彼らにもたらすのだった。
「複製された男」は、偶然自分とそっくりな男に出会ってしまった男の悲劇である。
誰だって映画のスクリーンに自分そっくりな男がでてくれば気にはなる。幸い私の場合は相手がハリウッド在住なので放置しているが、この映画の主人公のように近くにすんでいたら、当然会いに行きたくなるだろう。
だが、その先にはどんな展開が待っているのか。少なくとも人生=自我の存在を根底から揺るがす大事件である。お互い無傷では決していられまいが、それ以上に好奇心が勝ってしまうのが人間というもの。じつに説得力あるストーリーである。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、全体的に不穏な色彩の映像によってなにが起きるかわからない、先読み困難なサスペンスを作り上げた。「ぜひ二度三度とみてほしい」と語っているとおり、私も2回みてみたが、なるほど2度目はまた違った物語の側面がうかびあがる。
たとえばそれは、実はこの映画で瓜二つなのは、アダムとアンソニーだけではないということである。はたして似ているのは外見だけだったのか。
ポルトガルのノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの原作にはない蜘蛛のモチーフで象徴しているあたり、この映画版の真の主人公、もしくは恐ろしい人間の本質というものは、そちらにこそあるのかもしれない。
そんなことを考えながらみてみると、この上なく味わい深いものがあるだろう。今年は「プリズナーズ」(5月公開)に続く2作品目のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。いまのところ、外れなし、である。