「あいときぼうのまち」30点(100点満点中)
監督:菅乃廣 出演:夏樹陽子 勝野洋

村人を打ち倒すにはまだまだ足りぬ

日本の映画が面白くないのは、出資者間の調整ばかり優先して企画のコンセプトに力がないからである。だから、強烈なコンセプトがあれば、それだけで優位に立てる。

2011年、東日本大震災の直前。愛子(夏樹陽子)は若いころ恋人だった奥村(勝野洋)とSNSを通じて再会する。彼は、長年原発労働者として働いていたが、息子をがんで失ったばかりだという。愛子の人生、そして系譜は、原子力と切り離せぬ因縁があるのだった。

終戦直前の福島でウラン採掘をする愛子の若き父親、そして66年の、原発建設を巡って住民が割れていた双葉町。そして震災前、震災後の2011年。これらの時代を、愛子を中心とした人間模様として描く。

「あいときぼうのまち」は社会派、故・若松孝二監督の遺志を継いだ脚本家の井上淳一らが中心となって進めた企画である。この企画については震災後、若松監督本人の口から聞いたことがあるが、とにかく東電を追いつめてやるんだと、その怒りたるや相当なものであった。

その企画は大手映画会社にあえなく断られ、なにより監督本人の死去により頓挫したかに見えた。だが、彼の周囲にはその怒りを共有するものたちがいたのだろう、こうしてとにかく映画は形になった。

しかしどうだろう、できあがったものをみると、あれほどの若松監督の怒り、東電に一矢報いるコンセプトが継承されたようには見えない。

むろん、これは菅乃廣監督という別の人の映画なのだからそこを嘆いても仕方がないのかもしれないが、あの若松監督の悔しそうな表情を思い出すと、どうにも忍びないものがある。

ドキュメンタリーではなく、おそらくドラマ映画ならではの感情に訴える力でテーマを伝えたいとの気持ちが作り手にはあったのかもしれない。

だがそのためには、いくつもの時代を並行させる構成は、わかりにくさばかりが目立つ。肝心の家系図も把握しにくいし、観客としても主人公に共感する暇がない。

この手の構成のドラマで観客の心をつかむには、求心力のあるスターを起用するか、大胆なくらい平易に割り切った筋運びで、よけいなところに気を散らせない必要がある。だが菅乃廣監督には、まだそこまで気を配る余裕が見えない。

いうまでもなく原子力発電がはらむリスクは、数世代にわたるものであり、どこかの総理がしれっとアンダーコントロールなどと口にできるようなものではない。その時間軸の長大さを、こうした構成で意識させたい気持ちは分かるのだが、まどろっこしい。

東電と喧嘩するんだとあのとき若松監督は言っていたが、その遺志を継ぐというのならば東電に一矢どころか、ガンシップ爆撃をくらわすような攻撃力を持つ必要があった。

この脚本では、東電も自民党も経産省も御用学者たちも、痛くもかゆくもあるまい。圧力をかけるまでもないと笑っているだろう。

たとえばいまの自民党政権は、純朴な愛国保守向けのパフォーマンスを垂れ流して偽りの支持率を集め、その裏で史上まれにみる日本破壊の売国的政策を進めている。

プルトくんのような出来の悪いプロパガンダを垂れ流し、その裏で廃棄物処理の見通しすらない不完全原発を進め、挙句の果てに国土破壊をやってのけた村人たちと、まさしく同じ構図である。おまけに登場人物まで共通している。

村人たちを本気でビビらせたいならば、こうした点をリンクさせるくらいの脚本(もちろん人物会社ともすべて実名で登場させる)を書いてほしいものである。

そうすれば、この構造こそが日本の闇そのものであり、現在も目の前で進行中だと人々に気付かせることができる。

日本人は人がいいから、いつの時代も同じ稚拙なプロパガンダ=シンプルな振り込め詐欺にだまされ続ける。

騙されないのは右も左も真ん中もクソ食らえ、自分以外すべてインチキだと看破する、まるでピュアな美少年のような美しい瞳を持った私のような批評家くらいなものである。

もっとも、この映画を若松監督から引き継ぎ完成させた男たちについては、私は並々ならぬ期待をしている。

この映画にしても、怒りやもどかしさは伝わってきたし、何より真剣みを感じられる。だから決してあきらめはしない。言いたいことを言う、ただそれだけのために製作から配給、公開まで自前でその手段をそろえてしまった若松監督の思いはそう簡単に消え去りはしない。それを知っているということが、映画を作れるということが、あなたたちの持つ何より強力な武器である。あなた方はそんじょそこらの映画作家ではない、戦士なのだと自覚すべきだ。これ1本で終わりにはしない。その思いを持ち続けている限り、私は彼らを応援する。

そしてなによりも、そうした反骨精神を支えるファンが世界中に大勢いることも、決して忘れぬよう。



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