「ハミングバード」65点(100点満点中)
監督:スティーヴン・ナイト 出演:ジェイソン・ステイサム アガタ・ブゼク
ハードボイルドな魅力
ジェイソン・ステイサムは並み居るアクションスターの中でもハードボイルドが似合う役者だ。ハンサムだし男臭いし、実際に肉体も強い。「ハミングバード」はそんな彼の特長を生かした、まさにハードボイルドな魅力たっぷりのドラマ。
特殊部隊兵士のジョゼフ(ジェイソン・ステイサム)は、事情があって逃亡兵となり、ロンドンでホームレスのごとき酒浸りの暮らしを余儀なくされていた。そんな折、彼はチンピラに襲われ仲のいい少女とも離れ離れになってしまう。逃亡中、偶然隠れた高級マンションの部屋が10月まで留守だと知った彼は、とりあえずそこで暮らしながら彼女と自らの人生を取り戻すため、手段を選ばず金を稼ぎ始める。
あらすじから想像できるような「レオン」風の恋愛ものではなく、意外にも男の人生再挑戦をメインにしたドラマであった。
とくに、期間限定使い放題なセレブマンションをゲットした主人公が守りに入らず、そこの調度品や銀行預金を浪費することもなく、夢の高額バイト生活(たまにひとごろし関連含む)を始める展開が面白い。やはり男たるもの、自力でなんとかするのが格好いい。なんとか人生を変えたいが、きっかけがつかめない男たちがこれを見たら、何かのヒントとモチベーションを得られよう。
ユニークなのは、無気力な主人公が住処を得たことで生き返る設定である。むろん、少女探しや仲のいいシスターとの交流などほかにも気力がわきあがる要素はあるものの、彼の人生にとって一番大事なのは安心して眠れる場所を得たという点である。
東京ではいまでもネットカフェや深夜のファストフードなどに行くと、明らかにそこで暮らしている若者を見ることができるが、彼らに必要なものもそれなのだろう。そうした福祉の支えなしに根性が足りない働けなどと言っても、そいつは無理な相談だ。なにしろ、ジェイソン・ステイサムだって無理だったのだから……。ともあれ、アウトローな闇社会もので福祉問題を考察できるとは、さすがの超映画批評である。
本作の中でジェイソン・ステイサムはホームレスからマフィアの用心棒まで華麗な転身を遂げるが、途中、ふつうのお父さん風の写真を撮る場面がある。シック極まりない黒のシルクタイを、やぼったいレジメンタルに変えるだけで、ただのオッサンになってしまうのを見て個人的にはたいへん驚いた。にんげん、服は大事である。
この映画は、厳密にはハッピーエンディングといえるのかどうか微妙なところだが、それでも鑑賞後の気分がとてもいいのは、登場人物たちの人生の帳尻があっているからだ。真面目に善行をつみさえすれば、すべてがうまくいくわけではないかもしれないが、ちゃんと帳尻は合うよと、そういうまっとうなメッセージをこの映画は伝えてくれる。
味方の偵察ヘリに監視される男の生きざまは、最後にどんな運命をたどるのか。どんな形で帳尻を合わせるのか。味わい深い男のドラマ、である。