「ローン・サバイバー」70点(100点満点中)
監督:ピーター・バーグ 出演:マーク・ウォールバーグ テイラー・キッチュ

捨てる神有ればひろう神あり

「ブラックホーク・ダウン」(01年)という戦争映画がある。ひたすら戦闘シーンが続く戦場疑似体験映画だが、松浦美奈による直訳系の日本語版字幕が軍事マニアにも大好評で、戦争映画のエポックメーキングと称されている。

「ローン・サバイバー」もその流れを汲む"戦闘"映画で、字幕翻訳も同じく彼女が担当。軍事系の映画の字幕が彼女だと安心感すら感じるわけだが、肝心の中身の出来の良さも、かの傑作を彷彿とさせる。

2005年6月、米海軍特殊部隊ネイビーシールズは、レッドウィング作戦を遂行しようとしていた。これはアフガニスタンの山岳部に彼らが少人数で降下、潜入し、タリバン幹部を補足するというものだった。ところがわずかなミスから、彼らは数百名の武装集団に取り囲まれてしまう。

知能も肉体もえりすぐりの米兵であるネイビーシールズ。冒頭、そんな彼らが九九すら満足にできなくなる過酷な訓練シーンをみせつけることで、観客に新鮮な驚きを与える。と同時に、その後の本編における出来事はこれ以上なのだと、後にいい伏線となって効いてくる。

見所はもちろん、関係者の手記を元にしただけ有るディテール豊かな戦闘シーンにつきる。敵地への潜入作戦のさなか、現地の山羊使いと遭遇してしまう悲運からこれは始まる。史実通り、ここで対処を誤ったがために、シールズは設立以来の壊滅的戦闘に巻き込まれる。

なにしろ200名以上の武装集団を相手にしたアウェー戦。とくに「地の利」は想像以上で、なめてかかっていた現地の少年が、崖をとんでもないスピードでかけ降りるシーンでは、シールズ隊員と共に観客も度肝を抜かれる。これをみて、ああ、とんでもない連中を相手にしてしまったんだと恐怖する。

さて、あんなおっかない野獣のようなアフガンゲリラ200人に囲まれたら、私たちなら全力でジャンピング土下座する以外に選択肢はないが、シールズは違った。どう考えても勝ち目なしと思われる状況でも士気はまるで落ちず、しかも完璧な連携で各自が鬼のような戦いぶりを見せるのである。

何百発撃ち込まれてもひらりひらりと銃弾をかわし続け、たとえ高所から転落してもしぶとく行動し続ける屈強な米兵たち。

落ち着いて考えてみると、おまえら不死身かよとか、そもそも山羊使いへの対応などバカ丸だしじゃねーかと文句の一つも言いたくもなるが、息つく間もなく戦闘シーンが続くので見ている間は考えもしない。

それにしても、真の意味で彼らはどこでミスをしたのか。

人を信じたことがいけなかったのか。それともハートランドの利権に手を出したことが、そもそも間違いだったのか。

それについては、映画の後半でそれとなく考えさせられる仕組み。この事件に無知な人でも問題なく見られる戦争エンターテイメント、おすすめである。



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