「ミスターGO!」55点(100点満点中)
監督:キム・ヨンファ 出演:シュー・チャオ ソン・ドンイル

ローランドゴリラがプロ野球で大活躍

野球映画には傑作が多い。同時に、変化球というべき変わった作品も多い。日本でいえば、かわいい女の子が中日ドラゴンズのピッチャーになって活躍する話とか、そんな感じだ。

だが韓国は違った。彼らは美少女の代わりに、ゴリラを助っ人外人として活躍させる野球映画を作った。

中国の僻地に、つぶれかけの雑技団があった。そこでゴリラに芸を仕込む少女ウェイウェイ(シュー・チャオ)は、ゴリラと話せるとのふれこみだったが、それを見た敏腕スカウトのソン(ソン・ドンイル)は、そのゴリラを斗山ベアーズの助っ人としてスカウトする。かくして韓国球界にあらわれたゴリラの"ミスターゴー"は、打率9割9分、長打率10割の代打の切り札として、とてつもない活躍を見せるのだが……。

韓国映画がすごいなと思うのは、まるで子供の夢のような思い付きに、多額の予算がついて立派なエンターテイメント映画になってしまうところだ。

「カンナさん大成功です!」(06年)でコメディづくりのうまさをみせたキム・ヨンファ監督は、今回このゴリラをリアルに作りたいがためにVFX専門の会社まで作り、500人ものスタッフと日夜研究してこのスペクタクルを作り上げた。

その結果は上々で、バッターボックスに立つゴリラの姿に違和感は全くない。出来のいいCGといえるだろう。

得意のコメディ要素は今回はそれほどふるわなかったが、このキャラクターと、それを操る中国人少女のキャラが立っているので楽しくみられる。彼女はムチさばきも様になっているし、レトロなおかっぱ頭のルックスも強烈。半ズボンのユニホームを着てゴリラのマネをしつつ調教する姿はシュールかつキュートである。

加えて、韓国でも人気のオダギリジョーが素っ頓狂な中日ドラゴンズオーナー役で登場している点も、日本人ならとくに笑えるところだろう。

ゴリラ争奪戦を繰り広げる中日や巨人のみならず、韓国の球団名も実在のものという点もよかった。冒頭のドキュメンタリータッチにおいても意識されていることだが、あくまでリアリティある世界観の中で、ただひとつ、非現実的なゴリラ選手を動かすからこそ面白いというわけだ。絵空事の中で絵空事をやってもインパクトは弱いのだから、これは正解。

それにしても、整形美女をテーマにした「カンナさん大成功です!」のときも感じたが、この監督は今回もおバカ映画のふりをしつつ、韓国の抱える社会問題をチクリと風刺している。

中国から連れてきた助っ人外人によって球団が救われたかと思うと、それを今度は日本に高く売りつけようと右往左往する。つまり韓国人にとってすら、韓国球界は「腰掛け」「ショールーム」に過ぎない。本命(稼ぎ場所)は日本なのであると、この映画は言っている。

悔しいことだが、それは韓国人なら誰もがうすうす感じている。彼らが異様に日本にライバル意識を燃やし、それが行き過ぎて反日感情にまでなってしまう理由の一端がここにある。

これは芸能界においてももちろん同じ。韓流ブームが去ってしまった今、この映画が語る「成功の方程式」の未来は真っ暗だが、はたして今後はどうなるのか。ちょいと不満ながらその答えまでは本作は踏み込まない。

そんな韓国人の不安を伝えてくる「ミスターGO!」は、日本人が見る価値のある韓国映画だ。こうした見る目のある映画監督が活躍できれば、韓国映画の未来も明るい。



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