「相棒 -劇場版III- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ」55点(100点満点中)
監督:和泉聖治 出演:水谷豊 成宮寛貴

杉下右京がネトウヨ批判

該当記事に書いた通り「テルマエ・ロマエII」はいまの流行に沿った愛国保守ムービーだが、同週公開にその逆の思想背景を持つ「相棒 -劇場版III- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ」があるというのは面白い。どちらもそれぞれの映画会社のキラーコンテンツであり、GWにガチンコ対決というわけだ。

警視庁特命係の杉下右京(水谷豊)と甲斐享(成宮寛貴)は、かつて杉下の相棒だった神戸尊(及川光博)の誘いで太平洋の孤島でおきた死亡事故の調査に向かう。杉下にとっては取るに足らない案件と思われたが、神戸の真の目的は、この島で軍事訓練体験ツアーを行っている民兵グループの調査であった。

日本にも軍事訓練を体験できるツアーが現実にあるが、この映画のそれはさらに本格的。伊原剛志や釈由美子らが演じる民兵グループは元自衛隊との設定。人目につかない、この場合は孤島でサバイバル的共同生活をしている様子は、なんだか連合赤軍ぽい? なんて思ったりもするが、あくまで国防の一環たる行動だから思想的には逆だ。

警察の目すら行き届かないこの場所に迷彩戦闘服の集団が集まって、いったい何が起きているのか。杉下たちは、あきらかによそ者、部外者として「住民」たちから悪意のオーラを浴びる。捜査をしようにも、警視組織からの満足なバックアップが得られない緊張感は、映画版ならではの新鮮さを感じさせる。

ジャングル内でのアクションはけれんみたっぷりで、現実感には乏しい面もあるがこれはこれで悪くはない。60を超えているとは思えない水谷豊の軽やかな動きにも驚かされる。

そして、なにより登場人物を通した作り手の思想と主張が色濃く出ている点が興味深い。痛烈なアメリカ批判およびニッポンの右傾化批判は、意外性と唐突感にあふれ、苦笑してしまうほど。相棒シリーズは流行に背を向け昔からリベラル気質であるが、それはそれでブレがなく心強い。

ただ残念なのは、それが脚本の完成度を下げている点。具体的には犯人が準備していたアレについてだが、あれは彼らの「目的」を考えたらまったくもってベストの選択ではない。使いにくく下手をすれば役立たずなアレよりコスパにすぐれた選択肢はほかにある。犯人が持つ専門知識からすれば、ああいうチョイスはないだろう。

もっとも「相棒」視聴者にそこが気になる人は少数派かもしれないが、映画として見ると、それも興収数十億を目指す勝負作ともなると、最重要な犯行動機にかかわる点の検証はもう少し細やかにしてほしいとの思いは出てきてしまうのである。

ネットの普及以来、平和主義者(主に左翼主義者という意味で)は議論に負け続けであり、自分たちが無策なのはもはや自覚している。そんな、批判はしたいが対案が出せぬイラつきのようなものが、この映画のラストからはひしひしと伝わってくる。



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