「ラヴレース」55点(100点満点中)
監督:ロブ・エプスタイン 出演:アマンダ・セイフライド ピーター・サースガード

現実のインパクトにもっと近づきたい

人気女優が風俗嬢などを演じることが、この日本でもよくある。だが本人に役柄のことを聞こうとすると、偉い人からそのことはあんまり聞かないでくださいねー、などと言われたりするそうだ。じゃあ何を聞けばいいのかと思ってしまうが、色々と大人の事情があるのでどうしようもないらしい。

敬虔なカトリックの家で育った21歳のリンダ(アマンダ・セイフライド)は、バーを経営するチャック(ピーター・サースガード)と出会い、あっという間に恋に落ちる。と同時にめくるめく性の世界を教えられた彼女は、よりチャックにはまり込んでいくが、やがて彼の金銭問題に巻き込まれる。

さすがはアメリカ、アマンダ・セイフライドほどの人気女優が、伝説のポルノ女優ラヴレースを、ヌードなど当然よといわんばかりにひょうひょうと演じきっている。

ただ、その体当たりぶりがコチラをはっとさせるほどに至っていないのが残念なところ。アマンダさんは過去に何度か脱いでいて意外性がないし、28歳にして早くも重力に負けつつある自慢の巨乳だけでは、ポルノ界のレジェンドのデビュー当時のインパクトを再現、とまではいかない。

加えてこの映画は、全体的に人間が描き切れていない。ラブレースというのは、世界をあっと言わせるポルノ作品に主演したくせに、のちにアンチポルノの急先鋒となった人物。まさに波瀾万丈の人生を送った人である。

だがこの映画を見えも、その大転換の理由がいまいち見えてこない。ここさえうまくいけば、感動的なストーリーになったと思うだけに残念である。

たとえば当時をリアルタイムで知らない世代としては、ポルノ映画といえど社会問題になるほどの人気が出て成功できたのだから、別に目くじら立てなくてもいいじゃないかと感じる人がほとんどだろう。

じじつ短編とはいえこれ以外に何本も出演し続けていたのだから、そこからアンチ運動家となるまでの間に、何か決定的な「説得力」がほしいところである。それがこの映画には不足している。

あと一つ、そのポルノ作品だが、なぜこいつがそれほど世間をびっくりさせたのかが説明不十分だ。ディープスロートという、特殊なブロウジョブのテクニックがその最大の理由だというなら、もっと描写を工夫してそれを「見せる」必要がある。むろんこれは、モザイクが要る意味での「見せる」に限らない。そんなことをしなくても、アマンダさんと監督ががんばれば「見せる」ことはできる。

普通の人間と普通じゃない人間。素材は興味深い。願わくばその境目を見いだす考察にもっと注力して、そこを突破口に脚本を切り開いてほしかった。



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