「キッズ・リターン 再会の時」70点(100点満点中)
監督:清水浩 出演:平岡祐太 三浦貴大

意欲は感じるが、これでは平凡な若者に届かない

北野映画の中でも一般人気の高い『キッズ・リターン』公開から17年。日本社会の空気はさらに重くなり、若者の活力もなくなっているように見える。

そんな現状に危機感を抱き、なんとか励ましたいとの思いから、そのプロデューサーと本作の清水浩監督は「キッズ・リターン」をもう一度世に出すことを決めた。

設定はあの二人の10年後。続編とはあえてうたっていないが「キッズ・リターン」の鑑賞は必須、DVD等で予習してから出かけたい。

落ちこぼれの高校生だったシンジ(平岡祐太)とマサル(三浦貴大)は、それぞれボクシングとヤクザの道へと進んだ。片腕の自由を失い落ちぶれてゆくマサルに比べ、才能を期待されていたシンジだったが、儲け重視のジム側から利用され、まったく前に進めないでいた。そんな二人が偶然再会し、くすぶる情熱に再び火がつこうとしていた。

企画意図からして、現在の世情をよく反映したドラマとなっている。もがき、あがく若者すべての投影たるマサルとシンジ。クライマックスのボクシングシーンは、恵まれた環境とはほど遠い環境に生まれ落ちたこの男たち二人、最後の戦いである。そのラッシュたるや、文句なしに涙を誘う。

キャストが変更になってもキャラクターの魅力は健在で、演じる役者たちにも違和感がない。そもそも監督は「キッズ・リターン」の助監督の一人なので、映像のタッチも似通っている。

ただ、ここいらへんが個性の違いだが、北野版のような張りつめた感じはあまりしない。命がけのヤクザ襲撃シーンも、汚職警官の存在も、北野監督ならばいつ誰が死ぬかわからない乾いた暴力の香りを漂わせていたことだろう。

もう一つ惜しいのがボクシングシーンで、シンジ役の平岡祐太は数か月の特訓を経て挑んだものの、さすがにランキング上位役との動きのギャップはいかんともしがたい。とくに最後の試合相手はたたずまいからして別格で、いかに努力したとはいえ付け焼き刃のボクシング技術で同じ画面に立つのはきつすぎる。もう少し演技のできる役者を選ぶか、ボクサーとしてのレベルを合わせた画面づくりが望ましい。

また、本当にこの二人に感情移入させたいならば、シンジが強くなるための説得力がもっと必要だ。ボクシングの面で努力させるとか、ジムの妨害のせいで才能を抑えられていたくだりをもっと具体的に表すとか、そういう映画的な、強くなる記号的演出がほしい。

現状では、シンジが結局もともと持っていた才能の力で勝ち進んでいるだけに見えてしまい、俺には才能がないと自信を失っている今の若者(こういう人たちをこそ励ましたいはずだ)の心には届かない。

本作は、全体的に楽観的な空気を漂わせているのも特徴的だ。若者を元気づけたいとの作り手の願いが反映されているのだと思うが、映画が希望的な分、現実は悪化しているという証明でもあり、複雑な思いである。

人間は描けているし、何より作品にたいする真摯な作り手の態度が感じられる好感度の高い作品であるだけに、もうちょっと、との欲求がでてしまう。決して悪くはないが、わずかばかり惜しい作品ということだ。



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