「もったいない!」70点(100点満点中)
Taste the Waste 2013年9月21日(土)から、東京都写真美術館ホール、名演小劇場(名古屋)ほか全国順次ロードショー 2010年/ドイツ/カラー/92分/配給:T&Kテレフィルム
監督:ファレンティン・トゥルン 撮影:ロラント・ブライトシュー 編集:ビルギット・ケスター
役に立つお勉強ドキュメンタリー
飢餓問題を語るとき、ちょいと詳しくなるとこんな事をいうようになる。「世界の食糧生産はもう十分人類全員をまかなえるだけある。つまり飢餓問題は食料の量ではなく配分の問題だ、食料が足りないのではなく、買えない貧困こそが問題なのだ」と。
たしかに一理あるのだが、その認識は不十分である。
「もったいない!」は、その段階でとどまっているレベルの観客に驚きと新事実を与え、さらなる高見につれていってくれる良質なドキュメンタリーである。
監督は、この問題をライフワークのように追いかけ、「映画は最高の学習の場」と語るドイツのヴァレンティン・トゥルン監督。彼は食品ロスと廃棄食品にテーマを絞り、その具体例を衝撃的な映像で見せつつ、それがもたらす問題と解決策への道筋を示す。気軽に見られる、奇をてらわない一般向け作品といえるだろう。
ユニークなのは、一番説得力あることを言っているのが、最初と最後に出てくる「ゴミ箱ダイバー」なる人たち。ヒッピーの系譜に連なる彼らは文字通り、巨大なゴミ箱にダイビングし、中から賞味期限切れ間近な乳製品だの野菜だの、色々なものを拾ってきては再利用する信念の男たち。ただしホームレスというわけではなく仕事も家もある。あくまで、もったいない精神の具現者というわけだ。
スーパーがあまりに早く食材を廃棄するため、売場と遜色のない食材を無料で手にする彼らは、週に一度、小遣い程度の金額の買い物だけで暮らしていけるのだという。消費税がこれからバカスカ上がる予定の日本人が見たら、思わずマネしたくなりそうな危険な魅力を持つ連中である。
それにしても、彼らが拾ってくる食材の質量ともになんと充実していることよ。日本では富裕層向けスーパーでさえ常設されている見切り品売場も半額シールも、この国には無いのかよと一瞬しらけかけるが、そこで当の日本の小売店の廃棄例が登場するグッドタイミングには思わず脱帽。
こうして廃棄される各国の食品事情については見てもらった方がおもしろいのでこれ以上は言及しない。
それにしても、こうして捨てられる食品に執着してそれを減らしたところで、救われるのは我々の財布の中身であって、途上国の飢餓は関係ない。そんな風に皆さんは思うのではないだろうか。もったいないから捨てるのやめようと言われれば、それはその通りと思うけれども、その理由が「途上国の飢餓をなくすため」なんて言われたら首をかしげてしまうのが当然だ。
さて、そこから先が本作の圧巻なところ。類似のお勉強型ドキュメンタリーは数あれど、実際になるほどと思わせる情報を与えてくれる作品はそうそうない。ヨーロッパの食糧政策に影響を与えたといわれる本作には、そのパワーが感じられる。
日本でも、こうした作品がどんどん出てきて世に広まるようになればいいのだが……。