「劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日」60点(100点満点中)
2013年8月31日(土)新宿ピカデリー他 全国ロードショー 2013年/日本/カラー/102分/配給:ギャガ
監督・脚本:中尾浩之 (TVシリーズ「タイムスクープハンター」全話) 製作:TSH Film Partners 制作プロダクション:P.I.C.S. キャスト:要潤 夏帆 上島竜兵 宇津井健 杏 時任三郎
劇場版らしい何かがほしい
「事件は現場で起きてるんだ」といったのは青島刑事だが、会議ばかりしている上層部でなく現場で這いつくばる名もなき戦士たちに視線を向けたそのコンセプトは、「踊る大捜査線」シリーズを歴史に残るヒット作へと導いた。
NHKのドラマ「劇場版タイムスクープハンター」は、文字通り歴史ものでそんな視点を取り入れたヒット作。そのうえでフェイクドキュメンタリーの体裁をとりつつSF要素も盛り込むという、相当な異色作となっている。本作はその初の劇場版となる。
時空ジャーナリストの沢嶋(要潤)は、"本能寺の変"直後の京都へ取材に行く。ところが名もなき侍(時任三郎)に取材中、歴史上重要な意味を持つ茶器が未来人と思しき人物に奪われる事件が発生。沢嶋は急きょ新人ジャーナリストの細野ヒカリ(夏帆)と協力して事に当たるが……。
「歴史はセレブが作るんじゃない、現場の名もなき住民が作るんだ」と言わんばかりに、有名人が全く出てこない。本能寺の変直後だというのに秀吉も光秀もなしである。主人公たちは相変わらず聞いたこともない町人らを取材しつつ、幻の茶器を追いかけたりなんだりと大忙し。そして、この混乱の時代に謎の焼失事件を起こした安土城の真相にまでいつしか迫ってしまう、というのが劇場版のお話。
この映画最大の問題は、映画版ならではの魅力に欠けるという点。普段無料で見ている番組を、1800円払って映画館で見るための動機づけが足りないのである。
本来ならそれこそド派手に信長だのなんだのを絡めてきたいところだが、シリーズのコンセプトがそこに背を向けて成り立つものなのでそうもいかない。結果、戦国史最大のミステリ、なんて無理筋のコピーをつけて安土城消失の謎を前面に押し出したがいかんせん弱い。それに主人公たち第二調査部はあくまで奪われた茶器を追いかけているのであって、そんな歴史の謎にかまっている暇はない。
要潤がガンツスーツを着て武士にインタビューする見た目のシュールさは面白いし、NHKぽいひな形で作られる取材映像がまたじわじわくるのだが、それは初見の人のみの特権。夏帆がなぜかセーラー服姿になるという、安土城消失以上の謎も配置されていたりするサービスショットもあるが、やはり少々地味すぎる。
企画自体の魅力は相変わらずだが、そこに上乗せする何かがほしかったと思わせる映画版である。