「ザ・タワー 超高層ビル大火災」75点(100点満点中)
THE TOWER 2013年8月17日、シネマート新宿ほか全国順次公開 2012/韓国/121 分/シネスコ/ドルビーSRD/字幕:小寺由香 提供・配給:ツイン
監督:キム・ジフン キャスト:ソル・ギョング ソン・イェジン キム・サンギョン キム・イングォン

ほどほどで十分?!

最近はバットマンもスーパーマンもリアル志向だが、そういうブームとて永遠に続くわけではない。たとえば「ザ・タワー 超高層ビル大火災」はそうしたコンセプトに堂々と背を向けたマンガ志向のアクション映画ながら、きわめて新鮮で、むしろ正義を感じさせる出来に仕上がっている。

ソウルの汝矣島に建つ超高層ビル「タワースカイ」。クリスマスイブのイベントに備えるマネージャーのユニ(ソン・イェジン)は、担当の厨房からボヤが出たことに一抹の不安を覚えていた。そんなスタッフの不安をよそに会長(チャ・インピョ)は、複数機のヘリから人工雪を降らせる無謀な計画を強引に遂行しようとしていた。

この映画のコンセプトは明確で、高層ビルの火事でわくわくさせ、恐怖とスリルを楽しませ、最後は人間ドラマで泣かせるというもの。40年か50年前のアメリカ映画でよく見られた、王道のパニック映画といえるだろう。

キャラクターは記号的で分かりやすい。たとえば清掃員のおばさんは、反抗期の息子の学費を稼ぐ報われない、しかしけなげで愛すべき設定。いまや国民総貧乏になりつつある韓国民の中流以下の共感を大いに誘う。このオモニのその後の運命は、もはや登場した瞬間にわかるというベタっぷり。消防士は顔見せのためか煙もうもうでもマスクを外して会話、行動する。こういう単純さは、どこの国の映画でも今時あまり見られない特徴である。

だが考えてみれば、群像劇なのに30分で火事が始まってしまうのだから人間描写なんてこの程度で十分、ということなのかもしれない。なによりわかりやすく、単純に、記号的に。「半沢直樹」がこれだけヒットする時代なのだから、日本でも案外こういうドラマの需要は高いのではないか。

さて、彼らがラブコメやらノリ突込みやらの軽妙な笑いを振りまき、観客が十分感情移入したところでお待ちかねの大災害が起きる。ここからはVFXも含めて特筆すべきものがあるわけではないが、それでも前ふりのベタベタドラマの共感力は侮れないもので、ちゃんと目標であるお涙ちょうだいは達成している。

リアリティなど適当なところで折り合いをつけていい。愛のために精一杯がんばる人間たちを堂々と描けば、十分お客さんは満足はできる。そんな単純な真実を教えられるかのような掘り出し物である。分かりやすいおかげで夏休みの中学生だって楽しめる。期待せずに何か一本選ぶなら、こいつを覚えておいて損はない。



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