「ブルーノのしあわせガイド」55点(100点満点中)
Scialla! 2013年4月13日、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー 2011年/イタリア/アルシネテラン/95分 配給:アルシネテラン
監督・原案・脚本:フランチェスコ・ブルーニ キャスト:ファブリッツィオ・べンティヴォリオ バルボラ・ボブローヴァ ヴィニーチョ・マルキオーニ フィリッポ・シッキターノ
肯定されたい人に
運命や境遇はそれとして前向きに受け入れ、気楽にいこうぜ──との価値観はラテン的とされるが、案外世界中のあちこちにあるものという気がする。なんくるないさーとか、ケセラセラとか、似たようなニュアンスの言葉もいろいろあるが、最近ではSCIALLA!、とのスラングがイタリアあたりで流行中らしい。本作は、そのシャッラ!をタイトルに持つ、国境をこえて広く受け入れられた、観客に愛されるタイプの作品である。
元教師で、いまはしがないゴーストライターにまで落ちぶれた男ブルーノ(ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ)は、あるとき日銭稼ぎの家庭教師で教えているルカ(フィリッポ・シッキターノ)の母親から、留守にする半年間ルカを預かってくれとのぶしつけな依頼をされる。彼女によると、なんとルカは15年前にブルーノとの間にできた実の息子だというのだ。
主人公はもう老境だというのに、社会に反発していつも不満ばかり抱えて生きている。その結果、生活はツケすら満足に支払えぬほど困窮。そのくせ自らの悪いところを決して認めない、じつに面倒くさい頑固老人である。かつては高い理想のもとに学問の道に進んだというのに、今ではポルノ女優の伝記本を、彼女の尻に敷かれつつ書かされる始末で、だれがどう見てもこの人生が好転する気配はない。そこに持ってきて、子供ができたことを15年も知らなかったとの絶望的な事実まで知らされる。こりゃひどい、とだれもが感じる序盤である。
しかし、そんな運命をいつしか受け入れ、前向きにやれることからやってみた結果、ちょっぴり幸せが訪れる。そんなハートウォーミングな物語である。
この映画においてそうした救いが訪れるときは、他人との深い交流がトリガーとなっている。父と子、教師と教え子、ライターと取材対象。そんな本作の人間関係において、真摯に取り組んだキャラクターたちには必ずほのかな幸せが訪れる。
すべての問題を解決するような激変ではない。それは本当にささやかな幸せにすぎないが、だからこそリアリティがあるし、多くの観客が「俺にもこのくらいならば」と共感できるわけだろう。それが登場人物のように、毎日のやるべきこと、やったほうがいいことをコツコツ続けていくモチベーションになる。
穏やかで平和的なシャッラ!の精神は、イタリアの若者のみならず万国共通。そんな肯定感を味わいたい方は、さらっと見に行ってみてもいいだろう。