「脳男」75点(100点満点中)
2013年2月9日公開 全国東宝系 2013年/日本/カラー/125分/配給:東宝
原作:首藤瓜於『脳男』(講談社文庫刊) 脚本:真辺克彦 成島出 監督:瀧本智行 出演:生田斗真 松雪泰子 江口洋介

キャラクターが面白い

世の中に不満が渦巻くとき、警察を翻弄するクレバーな犯罪者がカリスマ化することがある。世界恐慌時代のボニー&クライド(何度も映画化された)にはじまり、現代日本の遠隔PC操作犯にいたるまで、いつの時代でも変わらない。警察の組織捜査の上をゆく行動力と知能、それは大衆の憂さ晴らしとしては定番中の定番だ。

もっとも捕まってしまえば、知性あふれる若きイケメンハッカーとは程遠い、30超えた小太りのオッサンだったりするのが現実の悲しさだが(いやあれとて真犯人かはわからないが)、映画「脳男」のタイトルロール(題名と同じ役)は違う。

生田斗真演じるこのクールな犯罪者は、痛覚をもたない特殊体質ととてつもない知能の高さによって、小太りオッサンにぶち壊された庶民のささやかな偶像を再び見せてくれる。

都内で連続爆破事件が勃発。捜査を進めていた刑事(江口洋介)は、アジトと思しき建物を突き止めるが、すんでのところで犯人らしき人物に逃げられてしまう。だがそこで彼は共犯者と思しき若者(生田斗真)を確保。異常な挙動を示したことから精神科医(松雪泰子)の精神鑑定を受けることになるが……。

ここで捕まったのがいわゆる「脳男」。なぜそう呼ばれるかは映画を見ればわかる。本作にはこの男と爆弾テロリストの二組の悪者がでてくるが、どちらを演じる役者も大健闘。若いのに意外性あふれる演技を見せてくれる。とくにラストの生田斗真の表情の変化は、背筋がぞっとするほど迫真のものがあった。彼と対決するテロリストを演じる役者のクレイジーっぷりもなかなかだ。

一歩間違えばマンガチックになりがちなこれらキャラクターも、瀧本智行監督と栗田豊通カメラマンが作り上げた重みある映像美によって、破たんなく収まった。栗田豊通は「クッキー・フォーチュン」(118分、米 ロバート・アルトマン監督)など海外作品でも活躍する人物だが、本作の映像も本格サイコキラーものして、どこか日本映画離れした緊迫感をたたえている。やはり女性と同じで、見た目のいい映画は良い。よけいな修飾語を付け加えることでいつもファンを減らしている私である。

ここまで本格的な映像にしたならば、警察官の銃器の扱い方など脇の役者たちも役作りにおいてもう少し頑張ってほしかったところ。何気なくトリガーに指をかけているだけでも、積み重ねたリアリティは崩れてしまうものだ。せめてダブルアクションとシングルアクションの違いくらいは、演じ手も作り手も認識してほしいと思うところだが。

偽善と悪、正義の違いなど哲学的なテーマは突っ込み不足で物足りないものの、そのあたりは邦画だからこんなものかという感じ。キャラクターの魅力だけで十分な面白さがあるので、いわゆるサイコキラーものが好きな人にはぜひ見てもらいたい。日本映画でもこれだけユニークなキャラクターを生み出すことができるようになった。

現実社会が本物サイコパスだらけのアメリカ様にはさすがにかなわないが、それでもなかなかの出来。おすすめである。



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