「東京家族」65点(100点満点中)
2013年1月19日(土)全国ロードショー 2013年/日本/カラー/146分/配給:松竹
監督:山田洋次 脚本:山田洋次・平松恵美子 撮影:近森眞史 照明:渡邊孝一 出演:橋爪功 吉行和子 西村雅彦 夏川結衣 中嶋朋子 林家正蔵 妻夫服聡 蒼井優
山田洋次版「東京物語」
全国民の共通言語を失いつつあるアメリカにおいて、その最後のテーマである家族愛を描いた作品が量産されていることは何度も述べた。いつの時代でも、どの国においても、家族のすばらしさを描いた映画はいいものだ。だが、クリエイターがそんな話しか思い浮かばなくなったら、それは末期症状だ。
久々に上京してきた平山周吉(橋爪功)と妻のとみこ(吉行和子)だが、長男の幸一(西村雅彦)ら東京の子供たちの生活があまりにせわしなく、どこか孤独感を感じ始める。そんな中、とみこは問題児と思っていた次男(妻夫服聡)から紹介したい彼女(蒼井優)がいると打ち明けられる。
ホームドラマといえば小津安二郎監督。中でも「東京物語」(1953)は、先ごろ英国の映画誌が世界映画史上ベストワンに選び話題になったほどの、誰もが認める不朽の名作。「東京家族」はその「東京物語」を、現代のホームドラマの巨匠というべき山田洋次監督が現代的に翻案した作品である。実質的なリメイクといってよい。
登場人物の名前や設定はオリジナルに準じ、地方から出てきたものの都会の生活者との温度差を感じ、寂しい思いをする本筋も一緒。そんな形でこの2013年にあえて作り直した山田監督の真意はどこにあるのだろう。そんなことを考えながら、できれば原版との違いも探しつつ楽しむことをすすめたい。何しろ彼は、震災の発生を受けて、莫大な損失を覚悟の上で制作の延期と脚本の見直しを決断したほどなのそこにはいくらかの時代性が追加されている。
出来映えはいつもの山田洋次クオリティで、原版を彷彿とさせるローアングルなどをときおり見せながら、人間ドラマの王道を紡ぎ出す。テレビドラマや舞台にもなった「東京物語」だが、今後こうしたフィルム撮りでリメイクされる機会はほとんどあるまい。
つくづくこの物語が優れていると思うのは、時代の要請で登場したアメリカのホームドラマの数々と異なり、何十年の時を経ても色あせない主題の普遍性である。ここで描かれる日本の風景じたいは、必ずしもリアルというわけではない。むしろ少々非現実的、ファンタジックな印象すら受けるが、それでも登場人物たちの心情や行動には共感できるし、それはまぎれもなく日本らしさの塊そのものである。それでいて、どの国の人にも愛されるだけのわかりやすい魅力がある。
家族の本質とは、増えてゆくもの=未来へのつながりであり、それが今を生き、いつか去らねばならぬ人間の心に安心をもたらす。そして、いつになっても家族からは新しい発見と感動を得ることがある。それは、長年付き添った者の死の時でさえ、そうである。それを知る大人の観客たちは、ある人物が「君はここにいていいんだ」と叫ぶとき、涙を誘われる。
変わらないものはいいものだという考え方があるが、この映画はまさにそのひとつ。おそらく50年後にこれをみても、あるいはリメイクしてみても、変わらず良いと感じるに違いない。映画の出来映え同様、きわめて安定した、間違いのない一本といえる。