『ラスト・ソルジャー』55点(100点満点中)
大兵小将 / LITTLE BIG SOLDIER 2010年11月13日(土)渋東シネタワーほか全国ロードショー 2010年/中国・香港/95分/配給:プレシディオ
監督:ディン・シェン 出演:ジャッキー・チェン ワン・リーホン ユ・スンジュン ドゥ・ユーミン
≪中国の不可解な行動を理解したい人に≫
バブル経済華やかりし頃、ジャパンマネーは世界を席巻し、その勢いの前には欧州も米国も歯が立たなかった。その邁進力たるや、現在でいえば絶好調の中国経済よりも上であったのではないか。
だがそんなイケイケドンドンの時代でも、日本人は軍備を増強しようとか隣国に進出しようとか、そんな考えは思いもしなかった。
だから最近、尖閣諸島問題で牙をむくお隣さんのふるまいが理解できない。かの国は、経済が好調になったとたん空母を作り、堂々と国境を拡大しようとふるまっている。
いったい彼らはなぜそんな、戦争の火種をまくようなマネをするのだろう……?
そんな疑問をもったなら、「ラスト・ソルジャー」を見るといい。この映画の中で、当たり前のように描かれる中国的な考えに、多くの日本人はきっとショックを受けるだろう。そして、隣の国がどういう本質を持った国なのかについて、多少なりとも理解の助けになるかもしれない。
紀元前227年の中国大陸、群雄割拠する戦国時代。「梁」軍のいち老兵士(ジャッキー・チェン)は、戦場跡で運よく敵国「衛」の将軍(ワン・リーホン)を捕虜にし、賞金目当てに連れ帰ることに。しかし道中、様々な敵から襲撃を受け、彼の命を守り続けるうちに、二人の間に奇妙な連帯感が生まれてくる。
ややコミカルな要素もあるが、基本的には真面目な歴史アクションドラマといったところ。中国内では、歴代ジャッキー映画の中で興収一位をとったという。なるほど、これは中国政府が喜びそうな内容である。ジャッキー映画にしてはアクション控えめ、見世物的なスタントはゼロ。おまけに少々退屈な語り口ながら、この映画を今年見逃せない中国映画の一つに私が数える理由もそこにある。
つまり本作は、決してそれが主題ではないものの、いわゆる事大主義の価値観のもとに作られている珍しい娯楽作というわけだ。わかりやすく中国を理解するためには、こういう映画を見るのが手っ取り早い。
事大主義とは、簡単に言えば強いものには逆らわず、おとなしく言うことを聞いたほうがトクだよね、という発想のこと。朝鮮半島のように、隣に巨大な軍事国家をもつ地域では、生存のための外交的手法として受け継がれてきたとされる。
本作を見ていて面白いのは、中国人というのは当たり前のように、何の疑いもなくそう考えているんだな、とわかる点。こういう発想を持つ人たちならば、中華思想(中国こそ世界の中心だという排外思想)なんてバカげた妄想を信じるのも無理はない。武力侵攻以外で奪えるはずもない尖閣諸島をいつまでも本気で狙っている理由もよくわかる。小国はおとなしくいう事を聞け、というわけだ。
この反対に、日本人というのは相手が世界最強の武闘国家アメリカであろうと平気でケンカを売り(買い?)、たとえ特攻・玉砕してでも負けを認めない。柴千春もビックリの、一度怒らせたら手が付けられない民族である。事大主義的な外交の発想は、もともとこの民族にはそぐわない。日中が理解しあえないのも当然といえば当然といえる。
映画自体は、逃げては襲われ、逃げては襲われの連続で単調。二人のやりとりにもユーモアが足りず物足りないが、こうした諸々に思いをはせるきっかけを与えてくれるという点で、価値ある作品といえるのではなかろうか。