『ゴースト もういちど抱きしめたい』15点(100点満点中)
2010年11月13日(土)公開 2010年/日本/カラー/116分/配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン・松竹
プロデューサー: 一瀬隆重 監督:大谷太郎 オリジナル脚本:ブルース・ジョエル・ルービン 脚本:佐藤嗣麻子、中園ミホ 出演:松嶋菜々子 ソン・スンホン 鈴木砂羽 橋本さとし 樹木希林
≪20年前のハリウッドに完敗の無念≫
『ゴースト もういちど抱きしめたい』を見ると、現在の邦画界の問題点を見事なまでに網羅したその出来栄えに、ほとんど気持ちがいいと形容したくなるほどの爽快な敗北感を味わえる。
大成功した実業家の七海(松嶋菜々子)は、誕生パーティで泥酔した翌朝、陶芸家志望の韓国人ジュノ(ソン・スンホン)の部屋のベッドで目覚める。下着すら身に着けていない自分に驚愕した彼女は、しれっとした態度のジュノを見て動揺する。そんな最悪の出会いだったが、やがて二人は惹かれあう仲に。しかし、そんな七海へ最悪の運命が襲い掛かる。
オリジナルの「ゴースト/ニューヨークの幻」(90年、米)はテレビで何度も放映されている超人気作。30代以上の女の子にとっては、ラブストーリーのド定番といってよい。急逝したパトリック・スウェイジ、そして若き日のデミ・ムーア、二人の仲介をするウーピー・ゴールドバーグと、見事な演技のアンサンブルが人々の涙を誘う名作である。
それをこのたび、3年ぶりに映画主演に復帰した松嶋菜々子をゴースト役、ソン・スンホンをその彼氏役に、日本でリメイクした。いったいなぜこの二人なのか、なぜ日本映画なのか、なぜゴーストが男女逆転しているのか……。徹頭徹尾「いったいなぜこんなことに?!」に満ちた一品である。もちろん、それらの謎は永遠に解けることはない。
CG効果をわざわざ20年も前のオリジナルそっくりにしたり、ろくろを回すなどといった名シーンを再現したりと、作り手以外だれも喜ばないこだわりが随所にみられる。
日本でもそこそこ人気のあるソン・スンホンを相手役に迎えたことに引っ張られたか、前半の愛を深めるくだりは、やや入場料に見合わないチープな韓流ドラマ風味に演出。大げさで現実味のない演技に挑戦した松嶋菜々子は、そつなくそれらをこなし、女優としての実力を示した。
松嶋、ソン、主題歌のアンチェインド・メロディを歌う平井堅……そうそうたるメンバーが、名作「ゴースト」のまねごとをしているかのごとき不協和なアンサンブルを奏で、観客はどう反応していいかわからない。ともあれ、あのゴーストのリメイク権を見事買いつけてきた製作者の手腕については称えてよいと思われる。
苦し紛れのような企画、資金繰りの苦しさを予想させるような日韓キャスティング、大した理由なき原作変更……。リメイクでやってはいけない事を、本作は片っ端からやっている。
なぜ2010年の今、あの映画をリメイクするのか。するならば、どういうアイデアを加えれば現在公開するに値する付加価値を見いだせるのか。それをテーマに3日ばかり徹夜の会議をすれば、少しはマシなものができただろう。そんな時間すらさけなかった関係者の多忙さが残念でならない。
20年も前のハリウッド映画の足元にも及ばないこのていたらくに、猛烈な脱力感を感じられる一品。ここまで凄いと、逆にみなさん見てみてくださいと思わず言いたくなってしまう、本年度屈指のトンデモ品である。