『ちょちょぎれ』60点(100点満点中)
2010年9月11日よりシアターTSUTAYAにてレイトロードショー 2010年/日本/82分/カラー/トレジャーエンターテイメント
監督・脚本 佐々木友紀 製作 佐々木友紀 早坂伸 撮影 早坂伸 音楽 水野敏宏 出演:片山亨 玲奈 齋藤ヤスカ 乙黒えり 福下恵美 永井浩介 広澤草 古川りか

≪美しい映像でみせる等身大の恋愛模様≫

人間は美しいものが好きである。花にしても美術品にしても、美しいから人は惹かれるわけだ。

もちろん、美しさには目に見えないものもある。女性と付き合うときだって、さりげなく皆に料理をとりわけてあげる姿や、一途にメールを返信するなど、思いやりの心が現れるのを思わず見かけた瞬間、男は恋をするのだ。むろん、意地悪でも浮気性でも、結局のところ黒髪ロングで細身の美人なら恋をすることもあるが、それは決して表に出してはいけない極秘事項である。

家業の電気工事の仕事をしている守(片山亨)は、最近友人たちが続けざまに恋人や婚約者をみつけるのを見て、自分にそんな相手が全くいないことを痛感している。仕事先の親切な女性、雨宮さん(古川りか)にちょっとした憧れを抱いているが、ささやかな仕事上のサービスをするくらいで、思いを伝える勇気もない。そんなある日、守はなぜか友人のカノジョの親友(玲奈)に気に入られ、強引に押し倒されて交際を始めるが……。

『ちょちょぎれ』のようなインディーズ作品を見ると、時折はっとする瞬間があって面白い。この映画の場合は、冒頭の沼のほとりの完成された風景美や、一人残らず美女揃いの女優たちの美しさがそれにあたる。デジタル一眼「キヤノン EOS 7D」で全編撮影されたそうだが、その精細高画質がこれらの美点をより際立たせる。

本作は、どこにでもありそうな恋愛風景をいくつか絡めて見せていくことで、誰もがシンパシーを感じやすい恋愛映画になっている。それぞれの役者も誰か一人が目立とうとせず、また目立たせようとせず抑制が取れていて上手い。

主人公は、だれかれ構わず握手を求める風変わりな男。相手の体温を感じることが、彼にとってのコミュニケーションということか。

作業用の車の中で自家製のおにぎりを食べ、飲み物さえ水筒で持参する。そんな、堅実ながらどこか寂しさを抱えた男は、しかし自らそれを埋める相手を奪い取る気概にかけている。

そこに入り込んでくるのが、現代的な肉食女子のごときヒロインである。玲奈演じるこの女性が、自分の部屋に彼を引っ張り込み、キスをし、満面の笑みを浮かべて幸せそうに上に乗る様子はまさに自由奔放を絵に描いたよう。自分の心を素直に表現できる女の子と、この男はあまりにも違いが大きすぎる。

だが、男女は違いがあるほうがうまくいく場合もある。むしろそっちのほうが、互いを補完する関係で長続きしそうな気もする。はたしてこの二人の恋の行く末やいかに。

なお恋愛にはダークサイドがつきものだが、この映画はそういう「いやな部分」も綺麗に撮る。セックスのような生々しい瞬間もやはり綺麗に撮る。そういうコンセプトの恋愛映画が見たい人には、大作にはない繊細さ、丁寧に作られたホームメイドの雰囲気を、一度体験してみて損はない。

それにしても、これだけ綺麗に撮られたら、女優さんたちはさぞ幸せに違いない。一番幸せなのが彼女たち、というのも問題だが、男としてはそんな美人たちをただ見ているのもおつなものである。



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