保守寄りの判断が相次ぐ連邦最高裁 分断と内向きの姿勢が進むアメリカの今【風をよむ】「サンデーモーニング」|TBS NEWS DIG

国内では依然として、分断の動きが止まらないアメリカ。バイデン大統領の足元も揺らぎ始めています。

■黒人女性初の最高裁判事が誕生

6月30日、アメリカの連邦最高裁の新判事に、リベラル派で黒人女性初となるケタンジ・ジャクソン氏が、バイデン大統領の指名で就任しました。

ケタンジ・ジャクソン判事
「黒人女性が最高裁判事に選ばれるまでに、232年の歳月と115人の前任者を必要とした」

秋の中間選挙に向け、自らの実績をアピールしたいバイデン大統領。ところが、この最高裁を巡って今、アメリカ社会が大きく揺れています。

■アメリカ最高裁が「中絶権利否定」

アイオワ州では、中絶の権利を訴える人々と、トラックの運転手がトラブルになり、女性一人がケガをしました。
またサウスカロライナ州では、デモ隊と警察が衝突するなど、混乱が広がったのです。

きっかけは、6月24日、最高裁が下した判決。1973年に「妊娠中絶は憲法で認められた女性の権利」とした判決を覆し、権利を認めない判断を下したからです。

米市民「判決が覆されて1973年に逆戻りです」米市民「中絶は基本的人権。その権利を支持するために来ました」

一方で、この判決に胸を張ったのがトランプ前大統領です。

トランプ氏「裁判所は、憲法の勝利、法の支配の勝利、そして何よりも生命の勝利を言い渡した!」

アメリカの最高裁判事は9人。そのうち、トランプ氏が在任中、3人の保守派の判事を指名し、保守派が6人、リベラル派が3人という内訳になっていました。

実際、今回の判決は、賛成5人、反対4人のわずかな差。トランプ氏が指名した3人を含む5人が中絶規制に賛成したのです。

■保守寄りの判断が相次ぐ最高裁

実はこの中絶規制の判決前日の6月23日にも、最高裁は、銃の携帯を制限するニューヨーク州の州法が、憲法に違反するとの判断を、保守派6人の賛成で下したばかりでした。

ニューヨーク市民「大勢の人が銃で死んでいる。他の国ではあり得ない」

さらに6月30日には、バイデン政権の看板政策である「温暖化対策」を巡っても、政府の権限を縮小し、対策を後退させる判断を下したのです。

米・バイデン大統領「今回の最高裁の判断は、間違っているというのが、私の意見だ」

共和党の考えに近い、保守寄りの判断が相次ぐ最高裁。世論を二分する問題でのこうした判断は、アメリカ社会の分断を一層深めています。

■バイデン大統領の支持率急落の要因は?

分断の修復を掲げてきたバイデン政権が、今、さらなる逆風に見舞われています。ガソリンや食料品など幅広い分野での歴史的な物価高です。

米市民「食料品が4割もあがっている。高くてしょうがない」

この状況にバイデン大統領の支持率は下落し、就任以来最低の36%を記録。さらに、こうした国内事情が、ウクライナでの戦争にも影響しています。

■米社会で広がるウクライナ離れとは?

米・バイデン大統領「プーチンによる値上げが、アメリカに打撃を与えている」

バイデン大統領は、最近の物価高騰を、ロシアによるウクライナ侵攻の影響だと訴えますが、アメリカ政治が専門の小谷教授は…

明海大学・小谷哲男教授(アメリカ政治)
「バイデン大統領としては、このインフレの原因がプーチンインフレだと国民に説明してきました。しかし、国民からすれば、インフレが現実に起こってるということの方が重要。3か月4か月と戦争が続く中で、アメリカ国民の関心が、ウクライナよりも、やはり身近な生活に移ってきた」

アメリカ社会で急加速する「ウクライナ離れ」。「今年11月の中間選挙で最も重要な問題は何か?」という調査に、「インフレ対策」や「経済対策」「銃規制」といった争点が上位を占める中、「ウクライナ問題」は、わずか1%の10位にとどまったのです。

侵攻開始以来、アメリカはウクライナへの支援を続け、5月には日本円で5兆円を超える予算案を可決しました。しかし…

共和党:ランド・ポール上院議員「この支援には、憲法上の問題、そして、その支払い能力に関する問題がある」

野党・共和党の中には、巨額の支援を疑問視し、ウクライナ支援に反対する議員が目立ちはじめているのです。

かつて「世界の警察官」を自任したアメリカの、こうした内向きの姿勢はなぜなのでしょうか。

明海大学・小谷哲男教授(アメリカ政治)「ウクライナ支援に関しては、例外的に、超党派で進められてきた。しかし今、分断がかなり根深くなってきているのが実態。これだけ大規模な軍事支援をする必要があるのか、そんなお金があれば、国内の様々な問題に使うべきではないのかという意見が高まっている。非常に内向きになっていると思います」

アメリカ社会の”分断”と”内向き”の姿勢は、長期化しつつあるウクライナ危機にまで、影を落とし始めています。

(「サンデーモーニング」2022年7月3日放送より)

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