ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊・ブチャで、ロシア軍が虐殺したとみられる問題をめぐり、衝撃が広がっています。ロシア側は「フェイクニュース」と否定するも、証拠が集まりつつあります。ロシア軍の置かれた状況や今後の狙いを、専門家に聞きました。
■ロシア否定も…虐殺「証拠」続々
有働由美子キャスター
「ブチャの町での虐殺について、ロシア側は『フェイクニュースだ』と反論しています。ロシアの国連大使は、ウクライナ軍がブチャに入った時の動画を証拠に、『遺体の話をしていないし、映っていないではないか』と主張しています」
「一方でニューヨークタイムズは、ブチャの衛星写真を分析し、ロシア軍の撤退前の時点で遺体がそのままだったのが確認できたとしています。矛盾し、ロシア軍の苦しい否定のように見えます。国際安全保障が専門の、慶応義塾大学の鶴岡路人准教授にうかがいます」
鶴岡准教授
「まさに苦しい否定だと思います。証拠がかなり集まってきてしまっています。今後、戦争犯罪を立証していく観点からは、しっかりした証拠集めと保存が必要になってきます。ウクライナと国際社会が連携して行っていく必要があると思います」
■広がる衝撃…「虐殺」これまでも
有働キャスター
「ロシアはこれまでも、虐殺というやり方をしてきたのでしょうか?」
鶴岡准教授
「チェチェンやシリアでは、似たようなことが繰り返されてきました。ロシアのやり方ではあると思います。ただ、プーチン大統領は『ロシアとウクライナは兄弟だ』と言い続けてきたわけで、『それで本当にこういうことをやるのか?』と、さらなる衝撃が広がっています」
「ロシアが否定し、フェイクニュースだと言っていること自体が、さらにウクライナ人の心を逆なでしている側面もあると思います」
■虐殺に関与? 「名簿」公開の狙い
有働キャスター
「ウクライナ側が、虐殺に関与したと主張するロシア軍兵士1600人の名簿を公開しました。これには、どういう狙いがあるのでしょうか?」
鶴岡准教授
「ウクライナ侵攻に参加しているロシア軍については、既にほぼ全員分と言われている名簿が流出しています。このため、公開の中身自体は新しいことではありませんが、『ブチャで直接関わっていた人』が特定されたことが新しいと思います」
「(公開の)目的ですが、主にはロシア軍兵士に対する警告、メッセージだと思います。『虐殺行為をしたら責任が問われるし、顔も名前もばれている』というメッセージです。『今後。こういうことをするな』という警告だと理解するのが良いと思います」
■飛び交う「フェイク」…どう判断?
有働キャスター
「落合さん、フェイクだと主張される映像が出てきますが、どう見ますか?」
落合陽一・筑波大学准教授(「news zero」パートナー)
「これがフェイクなのか、確証が持てるものなのか、実証できるものは何もないかなと思います」
「ある程度、虐殺のようなことがあったとは思いますが、ゼレンスキー大統領が国民に戦いを呼び掛けている中で、今、発見されているご遺体が完全に非戦闘員だったのかは分からない点もあると思います」
「その上で、ロシアに責任があることは明らかですが、『100報じられている、正しそうな情報の中に、1つか2つフェイクがあるかもしれないな』という気持ちで見ることが大切ではないかなと思います」
有働キャスター
「どちら側からの情報も、100%鵜呑みにしないという…」
落合さん
「はい。お互い戦争しているわけですから」
■EUが石炭と石油「禁輸」検討…効果は
有働キャスター
「国連の安全保障理事会が開かれていますが、EU(=ヨーロッパ連合)が(ロシア産の)石炭と石油の輸入禁止を検討しているという新しい情報が入ってきました。この効果は?」
鶴岡准教授
「石炭(の禁輸)は、欧州委員会が既に提案として発表していて、承認待ちという段階です。ただ石炭は年間で40億ユーロ、(日本円で)5000億円ほどの輸入量です。これを止めても、ロシアの財政にはあまり大きなダメージにはなりません」
「やはり本丸は天然ガスですが、代わりとなる供給先をもう少し確保しないと、EU側もなかなか動けないというのが現実のようです」
■ロ軍、マリウポリでも苦戦…次の狙い
有働キャスター
「もう1つ気になるのは、今後のロシアの狙いです」
小野高弘・日本テレビ解説委員
「アメリカの政策研究機関の分析によると、ロシア軍が新たに標的にしている町があります。東部の中心都市の1つ・スラビャンスクで、ここを陥落させたいといいます」
「この町を今、(ロシア軍が支配している)東側から攻めようとしても、町を守るウクライナ軍が応戦してこれ以上進めない。そこで反対側の北西方向から進軍して、この町を挟み撃ちにするために動き出そうとしています」
「スラビャンスクを制圧して拠点にすれば、周囲にいる他の部隊と連携して、いろいろな方向に進軍できるというものです」
「ロシア軍はドネツク州全体を支配しようとしています。ただ同じ研究機関によると、主戦場である東部ドネツク州・ルハンシク州のロシア軍は、ほとんど動けずにいて、士気も低下しているといいます。マリウポリでも苦戦していて、多大な犠牲を払っているようです」
「キーウ州から撤退したロシア軍は、もはや消耗している可能性が高く、他の地域に効果的に展開するのは考えにくい、とも分析されています」
■犠牲者さらに…「虐殺」他都市でも?
有働キャスター
「こうなると、ロシア軍は追い詰められて、より無謀な攻撃をするのではと思ってしまいます」
落合さん
「ロシアは正規軍で軍規があると思いますが、虐殺など、なぜこうなってしまうのかなと思っています。まともな軍隊なら、こんなことにならないはずですよね?」
鶴岡准教授
「まさにそうで、われわれは『こんなことが起きるわけがない』『こんなことをしないでほしい』と思ってきました。ただ今回は、そういったことがことごとく裏切られている、覆されているというのが現実だと思います」
「ブチャで行われたようなことは、おそらく他の都市でも行われていたのだろうし、今、行われているのだろう、あるいは、今後も行われる可能性があるのだろうと考えなければいけません」
「マリウポリでの犠牲者は5000人という話もありますが、今後さらに犠牲者が明らかになっていくのが現実だと思います」
(2022年4月5日放送「news zero」より)
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